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□第二十六章
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光の渦から吐き出された途端、アシュトンは素早く状態を調えると、大地を蹴って後方に跳んだ。一瞬遅れて、先程まで彼のいた地点に幾重にもなる炎の壁が出現し、アシュトンの網膜を焼き尽くした。
「……」
反応が鈍かったら燃やし尽くされていたであろう。だが、アシュトンは動じた素振りも見せなかった。大方検討はついていたのだ。
「いい反応だ」
朗々とした声の主は見ずとも分かった。
視線の先、長剣を携え、そこにはラファエルが佇んでいた。一見無防備に見えるが、それでも彼の体からはひしひしと殺気がみなぎっている。
アシュトンは気付かれない程度に、溜め息をついた。
「夢にまで見たよ。貴様を殺す瞬間を」
「そこまで執着しているんですか」
アシュトンは槍を構える。次の瞬間、二人はほぼ同時に大地を蹴った。
切っ先同士がぶつかり、激しい火花を散らす。アシュトンは彼の得物を弾こうと試みたが、それは未遂に終わり、アシュトンに生じた隙を見逃さず、ラファエルは剣を横に払った。
軌跡を残したそれは、風圧をも発生させ、アシュトンの腕から鮮血を迸らせる。
だが、ラファエルはそれ以上追い討ちをかけようとはせず、彼は何故か己の間合いから外れた所に着地した。
「何故本気にならない」
見透かしたようなその発言に、アシュトンの表情が微かに変化したが、すぐにそれは失笑に上塗りされた。
「買いかぶりすぎなんじゃないですか?」
「貴様の力を私は知っている。なめているのか?」
「なめていませんよ」
再び、アシュトンは失笑する。
「感覚を取り戻すのに暫く時間を要するものなので」
「平和ボケか。とんだお気楽精神だ」
「勝手な事を言わないでくれますか?」
アシュトンを取り巻く空気が変化する。すうっと冴え渡った大気は、彼が戦闘に集中する事の予兆だとラファエルに報せた。
「伊達や酔狂で隊長をやっていませんよ」
「その肩書きもこれまでだ。貴様は必ずここで息絶える」
「どうでしょうか」
一気に、アシュトンは大地を蹴る。一瞬にして間合いを零にし、アシュトンの槍が唸る。軌跡に沿って雷撃が空間を裂き、轟音と共に白煙が辺りに立ち込めた。