.

□第二十二章
1ページ/15ページ

柔らかな風が髪をなぶり、梨乃は足元に石畳の感覚を感じた。

視線を上げれば、眼前に広がるのは真っ青な青空。先程までいた世界と情景はほぼ同じで、梨乃はちゃんと無事に帰ってくる事が出来たのか不安に思ったが、それは杞憂に終わったようだ。

「大神殿……」

高台にそびえ立つ尖塔。過去の、まだ聖都と崇められる以前のスカイテッドには、当然あのようなものは存在しない。無事に帰られた事への安堵から、梨乃は肩で息をついた。

「よかったー!あたし達の時代だ」
「もうこれ以上世界の歴史を変える程の出来事は起きていない。さすがにレイチェルも諦めるかな…?」

アシュトンは呟いたが、それは恐らく自分に言い聞かせるためだったのであろう。それは梨乃とて同じであった、レイチェル達がそうも簡単に諦める筈がない。

「ねぇ、宿にでもいかない?『最後の審判』が終結したのは、昨日の今日だわ。さすがにちょっと…」

民家の壁に背を預けたまま、プリシスは肩で息をつく。その意見に反対する者もなく、梨乃達は街の宿にチェックインをした。

「うっはぁー!ベッドがふかふかだぁー!」

割り当てられた部屋に入るや否や、梨乃はベッドにダイブする。リンガイア軍本部にあったベッドはあまり寝心地がいいとは言えず、柔らかいシーツの感覚に、梨乃は頬を綻ばせて、枕に頬擦りした。

「軍のベッドはお世辞にも寝心地がいいとは言えなかったもんね」

窓を開け放ち、プリシスは大きく伸びをした。

「…だけど、本当にもう大丈夫なのかな」

枕に顎を乗せて呟いた梨乃に、プリシスとホリィは振り返った。

「確かにもう歴史を変える程の大戦は起きていないけど…レイチェルがあれで引き下がるわけないもん」
「そうよね。でも、これ以上何も出来ない筈よ」
「アシュトンも心配してたけど…考えても仕方無いわよ」
「そーだよねぇ。“アシュトン”も心配してたもんねぇー」

いやに「アシュトン」という部分を強調した梨乃に、ホリィは訝しげな視線を送った。

「…なによ。なんか文句でもある?」
「べっつにぃー」
「引っ掛かる言い方ね」
「だってホリィ、アシュトンの事好きじゃん」
「んな───っ!!」

ぼん、と一気に顔を赤くし、ホリィはわなわなと肩を震わす。その顔には、どうして分かった、とはっきり書かれている。

「わっ。やっぱりそうなんだぁ」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ