朝、あなたに出会って
□4、きみに、会いたくて
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売店で買ったパンは、思ったよりパサついていた。
これで150円とるとか信じられない。
レジのおばさんのふくよかな顔を頭の中でにらみつける。
次から絶対買ってやんないこのやろー
「でもさぁ、まゆ、大丈夫かなぁー?
ねぇ、もえ、なんかきいてるー?」
満里奈の言葉にはっとする。
満里奈は友里の一番のお気に入り。
つまりは腰巾着。
かわいい友里ちゃんはかわいい子、満里奈とかを近くにおいて、自分のレベルアップを図ってる。
確かにかわいいかもね、私の次に。
満里奈のつけてるマニキュア、昨日私がしてたやつだし。
ネックレスも同じ。
私の真似っこばっかしてたら、そりゃあかわいくに見えるでしょ。
(顔は変えようがないけど)
上手くマスカラを乗せてカバーしてある満里奈の細い目を見る。
なんで、今真由のことをきいてくるのか。
普段満里奈は、真由と接点ないのに。
答えは簡単。
満里奈の細い目の奥でチラつく警戒の光をとらえて私は微笑んだ。
「うんっ、なんかねぇ、すっごく熱でちゃったんだってぇ。
超キツいって、めっちゃつらそぉだった!
明後日くらいには来られるらしぃよぉ
」
「…そっかぁ〜。まゆ、かわいそぉ」
満里奈の口元が言葉と裏腹にわずかに緩む。
その隣で友里が舌打ちをしそうな顔を一瞬見せた。
大方、風邪なんて嘘で真由は不登校になっていて、私が友里のグループに鞍替えしようとしているとでも思ったのだろう。
友里が私を欲しがっていることは知っている。
満里奈が私を敵視していることも。
(よかったですねー、友里がとられなくて
)
2人の顔を視界の隅に捉えながら、もう一口パンにかぶりつく。
パサつきすぎ。
具の焼きそばもなんか甘いし。
ほんとに惣菜パンか…っーか、ほんとに売り物?
口の中が気持ち悪い。
それに、頭が少しぐらつく。
おしゃべりの甲高い声が響いて、神経に障る。
「うんうん、かわいそぉ」
眉ハの字にしやがって。かわいそぉ、とか欠片も思ってないくせに。
なぁにが、うんうんだ。
睨みつけてやりたい衝動を抑え、ポケットの中の携帯を握りしめる。
(やっば、寝不足ってきつ…)
普段は適当に笑って誤魔化せるのに。
「ちょっと、飲み物買ってくるねー?」
ポーチを片手に立ち上がる。
いってらっしゃーい、と華やかな声を背に、コンクリートの床を足早に進む。
パンのせいでのどが渇いたのは本当。
でも今は、何より1人になりたかった。
あそこで笑顔をキープし続けたら気が滅入ってしまう。
屋上から校舎に入る重いドアを閉じれば、辺りは一気に静かになった。
まるで音の無い世界みたい。
踊場で手を額に当ててため息。
頭がまだぐらつく。
そっと深呼吸をして、携帯を開く。
「…っ。」
待ち望んでいた手紙のマークは、ない。
力なく手首を下ろせば、ジャラリ、とストラップが耳障りな音をたてた。
きっと、携帯が手に取れないくらい、ひどいんだ。
無理やり、そう思う。
階段の下を用務員のおじさんがこっちを不審そうに ちらっと見て通り過ぎて行った。
こぼれた涙が、ストラップをはじいて 床に落ちた。