たいばに。

□その温もりをいつまでも
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「…っぁ…!?」

ドクンッという心臓のひと跳ねと共に目を開けたバーナビーは、いきなり陸に引き上げられた魚のようにはぁはぁと浅い息を繰り返す。
嫌な汗が背中を伝うのを感じながら定まらない焦点と止まらない震えにバーナビーはシーツを固く握り絞めた。

(…今の…、夢は…)

いたくはっきりと覚えている、先程まで見ていた夢を反芻しながら、まだ止まらない震えをどうにか諫めようとギュッと目を瞑った瞬間、後ろから包まれるように誰かに抱き締められる。

「っ…!?」

「…んな怖がんなって…、バニーちゃん…。」

誰、と口に出す前に紡がれた言葉と此方を呼ぶ声に体は自然に力が抜けていき、同時に此方を抱き締めてきた張本人である虎徹と昨夜一夜を過ごした事を思い出した。

まだ寝起きなのであろう、相手の霞んだ声に上手く答えられないまま、しかし今はこの温もりが心をきつく苦しめて、バーナビーは知らず知らず涙を流した。

「…、バニーちゃん…?」

嗚咽こそ出していないものの、バーナビーの異変に目敏く気づいた虎徹は徐々に目を覚ましながら相手の名前を呼んだ。
深く追及はせず、しかし心配の色は滲ませたまま相手の返答を待つ。
これが虎徹がバーナビーと長く付き合ってきた中で学び身につけた、バーナビーからの返事を待つ姿勢だ。

バーナビーもそれに気づいていたので、呼吸が落ち着くまで待ち、震える声で話を始めた。

「…夢を…、夢を見たんです…。」

「……どんな…?」

相手を興奮させないように、努めてゆったりと穏やかな口調で虎徹が尋ねた疑問に、バーナビーも落ち着きを取り戻しながら事細かに先程の夢について語る。

全てを話終えた時、バーナビーの体はまた微かに震えていたが、虎徹はそっか、とだけ答え、ただバーナビーを優しくそれでいて強く抱き締めた。

バーナビーは自分を抱き締める腕を掴みながら静かに言葉を連ね始める。

「…僕は…、全てを受け入れて消化したような顔をしていながら…、やっぱりどこかで両親との暮らしを夢見ているんでしょうか…。…いや、もう実際に夢に見てる時点で望んでいるんでしょうね。…、叶うはず…ないのに…。」

苦しそうに自嘲するバーナビーに、虎徹は静かに言葉を口にした。

「…ダメなのか…?」

その言葉にバーナビーは小さく体を震わす。それは驚きともとれ痛いところを突かれたという反応ともとれた。
虎徹は言葉を続ける。

「お前は確かに受け入れたかもしんねぇけど、…何も消化なんてしちゃいないさ…。」

「……っな…!
……んで…、…僕は…っ」

虎徹の言葉に納得がいかないと明らかに心を乱そうとするバーナビーのことを虎徹は一旦離すと、バーナビーの肩を掴み此方を向くように促す。

「こっち向いてバニーちゃん。」

バーナビーは一瞬戸惑ったが、すぐに大人しく虎徹の方を向いた。

虎徹は今日初めてみるバーナビーの顔をしっかりと見ながら先程の言葉に続けるようにして話を始める。

「消化なんて、しなくていいんだ。
だからって気負いすぎてもダメだけど、…でもわざわざその人と生きてきた思い出を消しちゃダメだろ?
……バーナビーは確かにその人と生きてたんだから…。
…それによ、俺だってたまに望んだりするんだ。
…亡くした奴との今をさ。……っでも、それだってそいつのことをちゃんと思い出してるって証拠だし、それもある種の弔いだと思うんだよな。」

…俺の持論だけど。
そう言って、切なげに誰かを思い出していた虎徹さんは、やはりどこか人間くさい顔で笑った。




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