たいばに。
□猫の日だって
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(空折)
「イワンくんは、猫だね。」
キースさんの笑顔が綺麗に輝く。
その笑顔に僕は赤面してしまった。
そう、僕達は今「皆を動物に例えるなら何?」という話題で盛り上がっていて。
皆の集まるトレーニングルームでどうだこうだと意見を交わしていた。
「そう?僕はネズミだと思うな〜。」
パオリンの言葉がぐさりと僕に突き刺さる。
それはなんだろう…。しょぼいってことなのかな…。
「それに、猫ってもっと、自由気ままな感じがするよ?」
まぁ確かに。僕もそう思う。
しかしキースさんはまた綺麗な笑顔を浮かべると、そうかな?と言った。
「猫という生き物は、実はとても臆病なんだ。だから警戒心がとても強い。でも、一度懐くと犬よりも信頼を強くおくんだよ。」
ね?イワンくんにそっくりだ。
そう言って僕を見て、またまたキースさんは笑った。
僕はどう返していいか分からなくて、顔に熱が集まるのを感じながらただ俯くことしかできなかった。
〜その後〜
今日は大した事件も起きなくて、トレーニングルームの面々も一度解散となったところで、僕はキースさんの自宅にお邪魔していた。
「ふぅ…、美味しかった…。」
キースさんが作ってくれた夕食を堪能した後、一人暮らしにしては広いソファーに腰掛け紅茶をたしなむ。
なんというか、とても優雅な気分だ。
「隣いいかい?」
洗い物を済ましてきたのか、捲った裾を直しながらキースさんがソファーに横に立った。
こうやって逐一僕の意志を尊重してくれるキースさんは、本当に紳士だと思う。
「も、もちろんです。」
でも、まだこのやり取りに慣れない僕は、少しどもりながらささっと横にずれる。
キースさんとお付き合いを始めてもう二月になるというのに、なんとも情けないと思った。
「ありがとう。」
とさり、とソファーが振動してキースさんが隣に座ったのが分かる。
しばらくの沈黙がどこかむず痒くて、僕は「キースさんの分の紅茶、淹れてきますねっ。」と立ち上がったのだが、それを阻止するようにキースさんは僕の腕を掴んで力強く引き寄せた。
「えっ、わぁっ…!」
いきなりのことに抵抗も出来ず、大人しくキースさんの腕に収まる。
しかし腕を引っ張った時の力強さとは反対に抱き締める力はとても優しく痛みもなかった。
「…キ、キースさん…?」
「…、紅茶よりも今は、君ともっと触れ合っていたいのだが…。いいかな…?」
後ろから聞こえるキースさんの声に断ることが出来るはずもなくて。
小さく、はい…と言って僕は頷いた。
「キースさんってやっぱり犬みたい、ですね。」
時折すりすりと僕の頭に頬擦りをしてくるキースさんに大型犬の影をみながらそう言うとキースさんはそうかな?と、首を傾げた。
「…はい。大型犬みたいな…。ちょっとジョンと似てる気がします。」
向こうの犬用ベッドでふさふさと緩く尻尾を振っているジョンを見ながらつい笑いが溢れる。
すると、後ろからキースさんの「…それはどうかな…。」という声が聞こえたと思った瞬間、視界が反転した。
どさりと振動を感じ、目の前にあるキースさんの顔を見た途端、押し倒されたのだと理解する。
そしてどんどんとその顔が近づいてきたかと思った瞬間、唇に柔らかい感触を感じ、最後に舌でぺろりと唇を撫でられた。
「犬は犬でも…、狼かもしれないからね…?」
しかもそんなことまで言われてしまえば……
犬の皮を被った狼
到底敵うわけがない。