たいばに。

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後ろから掛けられた声は、聞こえるはずのない、けれど一番聞きたかった声だった。


「…バニッ!?」

情けなく裏返った声が辺りに響く。

虎徹は驚きのあまり立ち上がり、その反動で3歩ほど後退った。


意味が分からなかった。

どうしてバニーがこの場所に、いやそれよりどうして此処が?まず何しに?なんでよりによって今日!?

分からない事だらけで混乱する頭を必死に整理しようと試みるが、容量の少ない脳では余計こんがらがるだけで。

「なんでお前っ…!?」

とりあえず目先の質問を投げ掛けようと虎徹はバーナビーを指差したが、バーナビーの有無を言わさぬ鋭く冷たい視線に、あっけなく虎徹の指先は折れた。


「少し静かにしてください。あまり目立ちたくはないので。」

そう言って静かに墓石に向かうバーナビーに、
確かにバニーちゃんは顔出しちゃってるし、
ファン(特に女子)に見つかったらハプニングになるでしょうね、えぇ!!
でもおじさんにとっては、今の状況の方がよっぽどハプニングなんですけどぉ!?

と叫びたい気持ちをグッとこらえ、ともえの墓石の前で静かに手を合わせるバーナビーをゆっくりと見る。

なんだよこいつ…。

こっちはいまさっきもう合わせる顔がないって言ったばっかなのに…。


あっけなく崩れた自分の決意に悲しくなりながらも、少し諦めの入ったため息を吐き出す。

「……なんで此処が分かった、バニー。」

しゃがみこむバニーの背中に静かにそう問いかける。
すると、バーナビーは祈りを解き、ともえの墓石を真っ直ぐに見つめた。

「今日、亡くなられた奥さんの命日だったそうで…。…アントニオさんから聞きました。」

あえて聞き出したとは言わずバーナビーはそう答える。

虎徹はそんなアントニオの口の軽さを素直に憎んだ。

「…っあいつ〜…!」

「…すいません。
勝手に聞いてしまって…。」

さすがにバーナビーも、他人のプライベートに深く突っ込み過ぎた事を反省しているのか、申し訳なさそうな声を出す。

「…いや、もういいさ。
聞いちまったもんはしょうがない。
……他にもなんか聞いたか?」

「…いえ…、聞いたのは今日が奥さんの命日だって事とお墓の場所だけです。
他には、何も…。」

「そっか…。」

そこで会話が切れた。
もともとお互い、今は話の弾むような状態ではなく、気まずい沈黙が辺りを包む。
その後、この沈黙を破ったのは意外にもバーナビーの方だった。

「…クチナシ…、ですか?」
どうやらバーナビーの目がいった先は花だったようで、白く揺らぐ花を指差してそう問うた。

「あっ、あぁ…。
…あいつが…、妻が好きだったんだ。クチナシ…。」
「…ともえさん…っていうお方なんですね。」

今度は墓石に手を置き、バーナビーは言った。

「すいません…、今日花も何も持ってきてなくて……。」

その後、申し訳なさそうにバーナビーは手を降ろす。
「いっ、いいってっ…!
気にすんなっ…!」

「はい…。」

そんなバーナビーを慌てて虎徹がフォローすると、そこでまた会話が切れた。



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