お題

□藍色(その深い青に触れたなら)
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入り組んだ洞窟を抜け、ようやく街にたどり着いた一行はそれぞれに安堵の息を吐く。
流石に丸二日かけての洞窟抜けは堪えるモノがあったらしく、とりあえずはと足早に宿を確保し、男女と別れた部屋へ散ると女子部屋ではアニスが、男子部屋ではルークが「もう無理ぃ」や「悪ぃ…限界だ…」などとそれぞれ最後の一言を残しベッドへとダイブすると、眠りの世界へと旅立っていった。

その光景を見た年長者組は仕様がないと肩を竦め、隣の部屋にいるティアとナタリアにも休むように言いつけた後、足りなくなったアイテムなどの買い出しに出掛けたのだった。






「っあぁああ〜、久々の街だぁああ〜、久々の音機関だぁあああ〜〜…!」


ジェイドと共に街の商店街へと向かうため宿の外に足を踏み出した瞬間、ガイは頼りなく眉を下げ破顔する。

ティアとナタリアに接している時は、そんな素振りなど見せず、いつものように気丈に振る舞っていたものの、やはりガイも精神的にかなりキていたようだ。



そんなガイを後ろから見ながら、ジェイドはちょっとした優越感に浸る。


というのも、ジェイドがルーク達と行動を共にし始めてからもう随時と時間が経つ中で、ぎこちなかったジェイドと仲間の関係も徐々に解れていき、特にその中でもガイは、世話役としての立場として近いものを感じたのかジェイドにだけは素の自分を見せるようになったからだ。

人前ではどうしても強がってしまうガイとしては、非常に珍しい反応であることにジェイドは目敏く気づいていたのである。


しかしガイが自分の前で気を許す度に、嬉しさが募りながらも頭の端では独占という言葉が膨らみを増し、自らを動かそうとする。


『自分の物にしたい』と、


彼が気を許すのはジェイドの前だけではない。
頭にはルークの影がちらつく。

それに舌を打ちたくなる憤りを、自分の中で押し留め何ら遜色ない顔で笑みを浮かべた。ガイへの軽口も忘れずに。


「おやおやぁ、だらしないですねぇ。そんなに街が恋しかったですか?ガイ。」

思惑通りこちらの軽口に反応したガイは、気だるそうな動きに気だるそうな顔をプラスして此方を振り向き顔をしかめた。

「子供扱いしてんのかい、旦那?
それと主に俺が恋しかったのは音機関だ。」

子供扱いと渋るわりには、子供のように口を尖らせている相手にこれまた愛らしさを感じながら、ガイの隣に並び、歩調を合わせる。

しかしまぁ、ガイの音機関好きには困った物があるとジェイドはため息をついた。
音機関相手にすら嫉妬してしまいそうだなんて、我ながら気持ちが悪い。

「…いやぁ妬けますねぇ〜。
そんなに恋しい恋しいと連呼されてしまうと。」


あえて自分の思考を冗談めかしく口にして、その思考自体も冗談になってしまえば…。
なんて、逆に虚しい。



「それはあんただろ…。」


恋しいと連呼するなどと、それはまさしくジェイドのことだと、静かに突っ込みを入れながら、妬けますねぇ〜、という相手の発言に何か思いついたのかガイはにやりと笑った。


「ふっ、大丈夫大丈夫。ちゃんと旦那にも構ってやるからさ。」


今度はこちらの番だとばかりにジェイドを子供扱いするガイ。
しかしその発言がジェイドには逆効果であることなどガイは知るよしもなくジェイドを悪戯っぽく見やる。


案の定相手の発言に目をぱちくりさせているジェイドは、ガイの言葉を反芻しながら自分の理性が少し傾くのを感じた。


「それはそれは、楽しみですね。」


わざとらしく目を細めると艶っぽい笑みでガイを見つめ、自分の視線に怯むガイを路地に押し込む。

「わっ!?ちょっ、何するんだジェイド…!」

突然の衝撃に足をもつれさせながら路地に入ったガイは困惑した顔でジェイドを見た。

ジェイドはまるでその揺れる碧に引き寄せられるようにしてガイに近づき、壁に追い詰め両手で行く手を塞いでしまえば、にっこりと笑った。

更に困惑する相手の耳元に顔を近づけると、情事を思わせる低く艶のある声で囁く。


「構ってくれるのでしょう?せいぜい楽しませてくださいね?ガイ。」

「……っ…!?」


まるで吹き込まれるような相手の囁きにギュッと目を瞑ると、ガイは小さく声を洩らした。

その反応に満足したのか、ジェイドは顔を離すと、またにこりと笑った。

うっすらと目を開け相手を見上げるガイは、状況をいまだ飲み込めずただただ困惑し、情けなく眉を下げる。

ほんのりと頬を染める朱の色に映えるようにして揺れ続ける碧にまた魅せられながら、ジェイドは「私はいつでもいいですので」と言うと、ガイの目に唇を寄せる。
反射的に閉じた瞼の上にチュッとリップ音をつけ口づけをすれば、今度は何事もなかったかのようにガイから離れ、通りへと出た。


「さぁ、行きますよガイ。
早くしないと日が暮れてしまう。」


「…へ。……へ?」

相手の変わり身の早さに間の抜けた声を出し、しかも此方を急かすような言葉まで掛け、いつもの胡散臭い笑顔を向けてくれば、ガイはすます混乱してしまう。

いやいやいや、今までのは何だったのだ。からかってたのか?バカなのか?ジェイドはバカなのか?

「ほら、先に行きますよガイ?」

「…いやっま、待てって!」

本当に歩みを始めた相手に焦って追いつくも、やはり先程の状況が整理出来ずガイはただ混乱を顔に浮かべる。


…い、意味が分からない…。


そんなガイを横目に見ながら、ジェイドは小さくほくそ笑んだ。

ガイは自ら引き金を引いてしまったのだ。

そのことにガイは気づけないまま、暫くの間頭を悩ませるのだった。




(その深い碧に触れたなら…)



理性も何もかもが崩れ落ちて。


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