たいばに。

□A HAPPY LIFE……? 1
3ページ/6ページ




まだ人気の少ないシュテルンビルトの海沿いに、静かに佇む数々の墓石。

その一角に虎徹はいた。

「…っとぉ…、ふぅ…まぁこんなもんか?」

命日ということもあって、今日はいつも以上に丁寧に墓石を拭き、不器用ながらも出来るだけ綺麗に見えるように花を添えた。

虎徹の亡き妻、ともえは5年前に病気で他界した。
埋葬は日本風に火葬にし、家にあまり帰れない事から骨の一部をこちらに移してもらい、後は母と娘のいる実家の近くに埋葬してもらった。

おかげで余り遠出しなくてもともえに会うことが出来る。

「悪いなともえ。本当は実家の方にも行ってやりたいんだけど…、毎度のことながらココから離れらんなくてよ。時間が出来たら、今度ちゃんと会いに行くな?」

綺麗に掃除され、朝の光を反射する「鏑木・T・ともえ」と彫られた墓石を、虎徹は慈しむようにして撫でた。
「そうだ、離れらんないって言ったらよ、この前楓の誕生日に有給とれたから家に帰ろうとしたんだよ。
したらまぁた事件に巻き込まれちまってな?
行けなくなったって楓に言ったら『ほらねっ』って言われちゃったよ…。
やっぱ信じてもらえてねぇんだよなぁ。
俺のせいなんだけどよぉ。」

そしてしゃがみこむと、毎度恒例の愚痴大会が始まる。
虎徹は休みがとれる度にここへ来ては、ともえの眠る墓に向かい近況を報告している。

まぁだいたいは娘の楓の事なのだが、この頃は新しく増えた相棒の話もちょくちょく出てくるようになった。

端から見れば独り言のように見えるのだが、喋っている時の虎徹のどこまでも優しい眼差しに、誰一人として不信の目を向ける者はいなかった。

「んで、そこで俺がバババーンッ!っとやっつけてやったわけよ!いやぁ、あの時の俺かっこよかったなぁ…。」

顎の髭をさすりながらしんみりと目を閉じる虎徹。
その時頭に浮かんだのはバニーの心底嫌がっている顔だった。

「なーんて。こんな事言ってたらまたバニーちゃんに嫌み言われちまうな。」

その光景を想像して、虎徹はハハッと笑った。
そして、頭の中にバニーの姿をちらつかせながら思い出す。

本当に報告したかった事を……




「…………。
…なぁ…、ともえ…。俺、…お前を……」



置いてくかもしれない

───────────────────────




.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ