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□depend(浜倉)
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「…の…浜野ー…おいコラバカイジ!!」

右頬の強烈な痛みで目が覚める。

「いでででででっ!!ひょっ、くらまっ!?」

つねられていた頬がやっと解放され、思わずさする。

「なんでつねんのよー?」

涙の滲む目で軽く目の前の男を睨みつける。

「お前がいつまで経っても起きないのがいけないんだろーが」

そんな理不尽な…


そう思いながらも目の前にいる倉間の性格上、仕方がないことなので自分の中で割り切ってしまう。

「あれ、速水は?」

ガシガシと頭を掻きながらひとり足りない存在を探す。

「塾だからって帰ってった」

壁に掛かっている時計を見上げながらあー…と納得する。

6時45分。

夏も終わり、段々寒くなってきたこの時期はこの時間帯になると外も暗くなってくる。

「あのさ、浜野、」

「ん?」

横に目を向けると倉間が量の多い前髪を無駄に何度も指で解かしながら目を泳がせていた。

本人は名前を呼んでくるが、まるで視線を合わせようとはしてくれない。


「保存の仕方…教えて」

一瞬何のことだか分からなかったが、倉間がここに来ている理由を思い出して理解した。

思わず口元が緩む。

「まぁ〜ったく典ちゃんったら〜俺がいないと生きてけないっちゅーわけ〜?」

「なっ、何でそうなんだよ!!」

のそのそとベッドから降りながらポンポンと倉間の頭を撫でてやる。
頼りにされて良い気にならない人などいない。
ましてや、相手はいつも突っかかったり、なかなか素直にならないあの倉間だ。
正直に言えば今飛び上がりたい程嬉しい。

「気持ち悪ぃな、お前」

適当に椅子を取り出し、パソコンの前に座る浜野の隣に、撫でられた部分をガシガシと掻きながら倉間が座り込む。

どうせげんなりとした顔してんだろうな、となんとなく横を盗み見る。
言葉を失った。
口元が緩んでいる。おまけに頬もどことなく赤みを帯びていて、浜野を絶句させるには充分だった。
今まで見たことのない倉間の表情にぽかん、と見入ってしまった。

「な、なんだよ」

浜野の視線に気付いた倉間とばちりと目が合う。

「べ、別に」

急いで目を画面へと移す。
浜野はバクバクと騒ぎ立てる心臓の音と次第に熱くなっていく顔に戸惑っていた。
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