夢無き物語
□短編集
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身長差
「というわけで付き合って下さい」
先パイがそう言って私の両肩に手を乗せる。スラッとしてる先輩の指は細くて、けど脆くはなくて。私の肩に手は乗せてはいても、ぎゅっとじゃなくて、優しくて。壊さないように、まるでガラス細工に触れてるかのような重さだった。
他の人と比べても背が高い先輩。他の人と比べても背が低い私。私が背伸びをしても先パイの首元くらいにしかならないのが現在証明されている。
だから必然的に私は見上げることになって。先パイは私を見下ろす形になる。いや、見下ろすだけじゃ足りないようで、先パイは背中まで丸めて私の目をじっと見つめていた。
ただその角度ゆえに、少し長めの先パイの髪が先パイの顔辺りに垂れてきていて。なんとも邪魔そうだった。
「……先パイ髪の毛うっとうしくないですか?」
とりあえず聞いてみた。真摯に見つめる先パイの目を見据えながら。
「今ちょっと思ってたよ。ていうか君ね、話逸らさないでね。これでも緊張してんだから」
あぁそうか。やっぱり邪魔だったんだ。それよりあの先パイも緊張していたんだ。いつも明るくてノリがよくて飄々としてるあの先パイも。いや知ってたけれど。先パイがこんなに真剣な目をしてる時点で。
「あ、はい。付き合っても良いですよ」
必死の抵抗であるぐぐっとつま先立ちもそろそろ限界のようで。足がぷるぷるしてきた。
「……」
「やっぱり背高いですよねー」
先パイの目が少しの間動きを止めたのが分かった。あっけにとられた顔だった。
「え? 本当に?」
「はい」
「後でやっぱなしとか言わないでね?」
「はい大丈夫です」
そんなに自信なかったのかな先パイ。この人自分の見た目とか気にしてなさそうだもんなー。
あ、うん。さすがに限界近い。いったん距離をとろうかな。もう、顔近すぎるもん。
そう思い、まずつま先立ちをやめた時。先パイがいつもの、屈託ない笑顔で私を見つめた。
「そっか! 良かったぁ。じゃあこれからよろしくね!」
そのいつもの顔が。あぁもう。止めてください先パイ。
いくら私も飄々としてるからといっても限界はあるんですよ。
「はい、よろしくお願いします。……首疲れちゃいますね」
私はすっと首を下ろし、シュッと先パイから顔を逸らした。