Treasure Box

□Happy Hallowen
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Happy Hallowen
※オールキャラ気味
※フリーです。
※短編集




「お菓子、と、いたずら!する!」

そう言ったのは、オレの姫さんだ。

「どーしたマーロン?」

久しぶりに運動でも、とストレッチをしていたのをやめ、駆け寄ってきたマーロンを抱き上げる。
オレからすれば羽根のように軽い体は、易々と持ち上がる。
しかし今日はマーロンがじたばたと動くため、少し大変だ。

「やあ!お菓子といたずらするの!」

「あ?なんだあ、それ?」
「ハロウィンがしたいんだってよ」

オレが聞き慣れないフレーズに参っていると、凛とした声が響いた。
声の持ち主は勿論考えるべくもなく、18号だ。

「あー、そんな時期か…」

「さっきテレビでやってたからな、羨ましくなったんだろ」

「あたしもお菓子といたずらするの!」

オレから思うような返事がないことに焦れたのか、マーロンはオレの腕から飛び降り、18号の方へ駆けていく。
マーロンが手を伸ばせば優しく抱き上げるその姿は、本当に綺麗だと思う。

「しっかしなぁ」

顔を上げれば広がるのは青い空。

「常夏みたいなこの島でハロウィンねって…ちょっときついだろ」

カメハウスがあるこの地域は、年中太陽が照り付け、季節の移ろいはあまり感じない。
だからこそ、何年もハロウィンなんてあまり大事でもなさそうなイベントを行うこともなかったわけで。

「みんなはどーしてんのかな…」

とりあえず、ジャック・オー・ランタンだけでも用意するか、とクリリンはホイポイカプセルを投げた。








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「天さん天さん」

「なんだチャオズ」

「さっきラジオで、お菓子を人に渡さないといたずらになるよって言ってたんだけど」

「!?……今すぐ菓子を買いに行こう」

「うん、かぼちゃもいっぱい買おう」

「わかった」










□■□■□■□■









「お父さん、お菓子をくれなきゃいたずらするよ!」

悟空の修業場にひょっこり現れて、悟天はそう言った。
会えなかった時間を埋めるように何かとついて来る息子に悟空は笑みをこぼす。
もうそんな時期か、と最後に見たカレンダーの日付を思いだす。

「もう31日かぁ」

「え!?お父さんハロウィン知ってたの!?」

予想外だと言わんばかりの悟天に内心首を傾げたが、ふと思い当たる。

悟飯が生まれてから一度死に別れるまでやっていたハロウィンは、めっきりご無沙汰になっていた。

悟天が生まれてからはどうだったかは知らないが、確かに今回は悟天と初めてのハロウィンだ。

幼い息子にハロウィンを知らないと思われていたことを笑えばいいのか悲しめばいいのやら、とにもかくにもならば今年は自分も参加しようと悟空は腰をあげた。

「おーし、じゃあちょっくら家帰って菓子とってくっか!」

「えー!?いたずらさせてよー!」

だめだよー!と悟天が短い腕で足にしがみつく。
今度驚いたのは悟空の方だ。

「なんだぁ?菓子食いたいんじゃねえんか?」

声が聞こえているのかいないのか、だめー!、と叫びながら足を引っ張る。
それなりの強さがあるその力に胴着がちぎれやしないかと不安になるも、その手が緩められることはない。
とりあえず悟天を踏んでしまっては(後でチチに怒られる可能性があり)危ないので悟天を引き離し目の前に座らせもう一度尋ねると、ふくれ顔だがやっと聞いたようだ。

「お菓子欲しかったらお母さんに言うもん」

拗ねてはいるものの自分が飛び立ってしまわないように目を光らせる悟天。
もういかないから、と言った言葉に疑い半分なのだろう。

「だから今来たのにー…」

一体誰に似たんだ。
といっても、自分の周りにいる何かと周到に図ろうとするのは、用心深いもう一人の息子かそれか当人の親友の賢しい子供ぐらいなのだが。
それでもまだまだ詰めが甘い。

「いたずらって、何したかったんだ?」

「何ならしていい?」

「うーん…?悟天はなんかねぇんか?」

「ええ?うーん……」


「んー…?」

「うー…?」


「………」

「………」


「……帰って菓子食いながら考えっか!」

「うん!」



悟空はいたずらっぽい笑みを浮かべたが、悟天はもうお菓子のことしか頭にないようだった。








□■□■□■□■











「ピッコロさん、いたずらをされるのと、お菓子を与えるの、どちらが好きですか?」

「デンデ、お前は菓子があったところで食べないだろう」

「それもそうですね」











□■□■□■□■









「ママー、Trick or Treat!」

「3時になったらね」

「ひどい!」

それただのおやつじゃん!というトランクスの悲痛な叫びと、けらけらと笑うブルマの声が響く。
それもそのはず、ダイニングで新聞を読んでいる今ならブルマの仕事の邪魔にならないとトランクスは踏んだのに、まさかの返答だった。
現在は早めの昼食を摂った正午過ぎだ。あと3時間はある。
無論トランクスは『Trick or Treat』と言ったのだからいたずらに縺れ込んでもいいのだが、そうすれば本来食べられたはずのおやつさえなくなってしまうのは必至である。

「ひどい…ひどいよママ…」

「ふっふーん、3時以降に言わなかったあんたの失態よ」

「4時に言ったら夕飯のデザートになる気がしてきたよ…」

「あらあんた頭いいわねー」

わたしに似たのかしら、と笑うブルマ。
そうしてまた新聞に視線を戻してしまう。
完全に負けたとトランクスは思い、ふらふらと諦めたようにドアへ近づく。

「ん?どこ行くの?」

「トレーニングルーム…」

そうしてそのまま出ていってしまったトランクスは、ちろりとすまなさそうなブルマの顔を見ることはなかった。



「パパぁ、Trick or Treat…」

トレーニングルームに入った途端、体に通常の何倍もの負荷がかかるが、トランクスはドアを開けた瞬間に踏み込んでそう言った。

「……ハロウィンか」

ベジータはトランクスが入ってきた一瞬、そのこの世の終わりのような顔を見て驚いたが、ブルマに上手く丸め込まれたと聞き、極めて冷静な声を出した。

「菓子ならいつも食べているだろう」

「ちっがうよ!ハロウィンのお菓子は特別なんだから!」

トランクスがそう叫ぶ。

「我が儘を言うな」

もちろんその程度、ベジータは我が儘だとは思っていないが、ブルマが一度突っぱねた要求を飲ませるのは自分だって困難なのだ。
しかしトランクスを可愛がっている祭り好きのブルマが何もなしに子供の要求を無下にするとも思えない。
――……まあ、からかって遊んでいるだけなのかもしれないが。

とにかく3時まで時間を潰したい、というので、ベジータは一つ思案する。

「なら、組み手に付き合ってやる」

「えーいつもやってるじゃん」

「オレに左手を使わせたらオレからもブルマに言ってやろう」

「ホント!?」

途端に嬉々とする息子を本当に現金だと思いながら、決して不快感などあるはずもなく。
さあ来い!と声をかけるとトランクスは勢いよく駆け出した。










□■□■□■□■










「お菓子がないなんておかしいなあー……ぷくく」

「ウホッホ」

「あめぇ飴舐めてたら舌キャンデしまった……くっくっく…」

「ウホーッホ」

「チョコでもちょこっと食べたいなーって、ちょ、これカレールーじゃん!あっうっカレーしてたーひーっひっひひ!!ワシ天才!!」

「ウホホホホ」

「あー……界王もみんなとハロウィンしかいおう……」

「………」






□■□■□■□■









「あれ、悟飯くん?」

「あ、ビーデルさん、奇遇ですね。どうしてここに?」

西の都のショッピングモールの人ごみのなかで見知った顔を見かけたと思えば、それは級友かつ恋人である悟飯だった。
洒落た服装の人の中でいつもどおりの垢抜けない格好の悟飯はなんともいえず浮いて見える。

「今日ここでやるハロウィンイベントにパパが出るっていうから、ついでに一緒にお昼食べに来てたの」

「サタンさんも忙しいですね」

忙しい、確かに多忙を極める父親ではあるが、本人が望んでしていることなのであまり大変そうだともビーデルは思えなかった。

「まあ…ね、悟飯くんは?ひとり?」

「いいえ、お母さんと一緒に、そこの卸売屋にうちで獲れたかぼちゃを出荷しに来てたんです」

「悟飯くんちって出荷もしてたの!?」

てっきり自給自足用だと思ってた、とビーデルは孫家のそれなりに広い畑を思い出す。
年中季節の野菜を育てているその庭を最後に見たとき、確かにまだ緑色のかぼちゃがころがっていた。
少しだけですけどね、と悟飯は微笑む。

「あ、あれ、チチさんは?」

不意を突かれて赤くなりかけた頬を隠すようにビーデルは見回す。
しかしそこにはいつもの髪を結い上げた姿も、似合う明るい色のチャイナ服を着た姿もない。

「お母さんはブルマさんの家にお菓子届けに行ってます。3時までに届けることになっているんで」

「チチさんお菓子作りも上手だもんね」

「はい、自慢のお母さんです」

そう言って嬉しそうに笑う姿に、自分の口角もつられてしまう。
私も料理頑張ったら、いつか、自慢の、って言ってくれるかな。
なんて、まったく、なんたらは盲目だなんて先人は上手いことを言ったものだ。

「まだこっちいるの?」

「ええ、お母さんを待つので」

「ね、ね、じゃあ、Trick or Date?」

「どちらでも」














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「そういえばヤムチャさま、今日ハロウィンでしたね」

「そうか、ここまで来ると年末までもう日がない気もしてくるな」

「ボク、お節予約してきますね」

「その前にクリスマスあるぞ」








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「ただいまー……」

クリリンが家に帰り着いたのは、日もとっぷり暮れた頃だった。
小脇に大きなかぼちゃを携えてはいるが、顔は沈んでいる。

「遅い」

「……悪い」

「何時だと思ってる」

「だっ……だってどの店行っても最後の一個はハゲとチビが買ってったって言われて!」

「お前か」

「今禿げてないだろ!」

チビだけどさー…と小声で呟く。日が暮れてしまった。だからこそクリリンはすっかり落ち込んでしまっていたのだ。
一軒ずつ売り切れの文字を見るたび濃くなっていくのは愛娘の悲しんだ影だった。

「……マーロン何してる?」

「じーさんと遊んでるよ」

「そっか」

武天老師さまに泣きついていませんように、と願いながら玄関を開ける。
明るい照明に一瞬目を閉じると、パン、と軽い破裂音が響いた。
何事か敵襲かと少し身を固くすると、

「ハッピーハロウィン!!」

と高い声が降ってきた。

「へ……?」

目をそっと開けると、クラッカーを片手に満面の笑みの娘がソファの上に立っていた。
普段飾り気のないローテーブルには紙でできた簡易な飾りつけが施されている。

「おとうさん見て見てー!おじいちゃんと一緒にいっぱい作ったの」

「ほっほっほ、折り紙なんて何十年ぶりじゃろ」

そう言って笑う亀仙人の手元には様々な折り紙が並べられている。
おそらく形の悪い方が娘の作ったものなのだろうと思う。

「おとうさん間に合ってよかったー」

「間に合っ……??」

「ハロウィンは日が暮れてからが本番じゃからのう」

よく理解できないでいる自分に、独り言というより言い聞かせるように、亀仙人はそう呟く。そちらを見やれば、いつか武闘家の心得を説かれたときのように優しい眼差しがサングラスごしに伝わる。

「老師さま……」

「クリリン、外から帰ってきたら?」

「手あらうんだよー!」

楽しそうな声を背中に受けながら、クリリンは急いで洗面所へ向かった。





Happy    
Halloween



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