Treasure Box

□ あなたのものを買いましょう
1ページ/1ページ






「バーゲンセール?」

「そ。バーゲンセール。」

「それに行ってくると言うのか。」

「あんたも行くって言ってんの。」


新しく屋内に整備され重力室からでると、扉の外で待ち構えていたらしいブルマがそう言った。
普段ならば扉の向こうに誰かいるのを感じれば立ち去るのを待っているのだが、なかなか今日のオレは修行に没頭していたようだ。


「オレは行かん。」

「もう決定よ。」

「勝手に決めるな。何故オレが行く必要がある。」

「えー、だって寂しいじゃない?」

「トランクスと行け。」

「バーゲンに子供は連れて行けないわよ。」


胸を張って答えるブルマに、これは今日はテコでも動かないと、飲むことにした。
これは譲歩ではない。強者の余裕というやつだ。


話がまとまって(強制的に)からのブルマの行動は速かった。
オレが汗を流している間に全ての支度を済ませ、そう言えば飯を食い忘れたと思った頃にはオレはすでに広いショッピングモールの中に立っていた。

普段化粧やら何やらで、頭の回転は速いが外出に時間のかかるコイツが、何故こうも急ぐのか。バーゲンセールとは一体どんなものだ、とフライヤーで興味本位で尋ねたが。なるほど今オレの目の前に繰り広げられているものは、まさしく「女の戦場」だった。確かに子供は連れてこられない。

ブルマと同世代であろう女、まだ似合わない香水の匂いを振りまく女、もう少し年上の者。般若の形相と言うべきか、それを浮かべて商品に向かう彼女たち。
少し前の戦いにのみ生きるオレなら、きっとその顔に親近感を抱いただろう。
しかし今オレが不本意ながら自分に近しいと感じるのは、人集りの周りで疲れたような、あきらめたような目をしている男たちの方だった。

ちょっとそこで待ってて、と言って人混みに消えたアイツ。
これだけ脆弱な気が入り乱れている場所でわざわざ探す気にもならない。

寂しいといのは、嘘か。

自分が何に苛立っているのかはよくわからないが、一つ舌打ちをし、先に帰ってしまいたい気分になった。というか、帰っていいだろう、これは。



「ちょっと、悪人面しないでよね。」

「は?」


顔を上げると、ブルマが紙コップを両手に持ち立っていた。
とても一戦交えてきた(と言ってもいいのか)ようには見えない。
何をしていたんだ、とオレが問う前にブルマは左手に持っていたコップをオレに押しつけ、じゃあ、行きましょうか、と何食わぬ顔で歩き出した。


「おい、あれに交ざらなくていいのか?」


あれ、とオレが指差すワゴンをブルマは一瞥し、「ああ、私ああいうペラペラで安っぽい服は着ないから。」と言い放った。
当の女たちは気がつかなかったようだ。

周囲の男から羨むような目で見られたが、それは相方が来た事にか、それとも相方がブルマだという事にかはわからない。顔だけはマシなこいつだ。
じろりと目をやると一瞬そいつらの顔が強張ったように見えたが、すぐに腕を引かれたため確かではないが。




「お前は一体何を買いに来たんだ。」

「そうねぇ、まずは……マグカップ?」


オレとブルマが向かったのは、少し奥まったところにある雑貨店だった。モール全体がバーゲン中とはいえ、競争率の高い服屋とは違うその店は静かだった。
商品のイメージなのだろう少し大人しい曲が流れ、店員もどこかのん気だ。

この中から一つ選んで、と言って連れてこられたカゴの前。



「何故こんな茶けた色ばかりなんだ。」

「アースカラーって言いなさいよ!温かみのある色合いがこの店のコンセプトなの!」

「だからこの星は文明が遅れるんだ。」

「いいからさっさと選ぶ!」


オレの批難も意に介さず急かしてくるブルマを横目で見やり、オレは適当に群青色のカップを手にとった。
薄く木目が印刷されてあるそれは、安売りと銘打たれていながらもなかなかの物に見えた。
何気なく手にとっただけだが、不思議とそれは手に馴染むような感覚があった。


「これでいい。」

「じゃあ、次に行くわよ。」


オレからカップを受け取り、見事な早業でオレの手にカゴを持たせたかと思うと、またブルマは歩き出した。
カゴの中にはちゃっかりさっきのカップが入っていた。



この中から選べ、どれが一番いいか、それはいまいちだなんだと言われながら、一つずつ選んでいるうちに、カゴはいっぱいになっていた。
あれやこれやと文句を言ってくるなら自分で決めればいいだろう、と途中言いたくなったが、ブルマは最終的にはオレに決めさせている。
流石にオレの物を買っているのだということはわかる。
しかしオレが日用品に特にこだわりを持っていないのは知っているだろうに、とも思う。オレがこだわるのは、戦闘に関することと、それと、近しい者ぐらいだ。




会計をブルマが終えるのを待って外に出ると、すっかり空は朱色になってしまっていた。
東の空には星も見える。


今日は重力をもう10倍増やしてみるつもりだったのだが、きっと戻る頃には夜だろう。


「やはりお前一人でもよかったんじゃないか?」

「だから寂しいって言ったじゃない。」


財布をしまうブルマに声をかければ、こちらを見ることもなくそう返ってきた。
そういえばそんな事も言っていた。買い物ですっかり忘れていたが。


「あの店ならトランクスだって大丈夫だろう。」

「あんたが決めなきゃ意味ないでしょ。」

「お前が決めたので構わん。」

「それじゃ今までと変わらないじゃない。」

「何かが変わるのか?」


首を傾いでみれば、呆れた、というような顔をする。


「ベジータは、うちで暮らすでしょ。ならあんたが決めたものが必要なのよ。」

今さら言わせるな、という雰囲気を纏ってそう言うブルマに、またオレは首を傾げる羽目になったが、そうか、とだけ返しておいた。





ーーーーーーーーーーー


あとがき


『リンゴリズム。』の赤流さまから相互記念に頂きましたっ!! ありがとうございますっっ!!(((o(*゚▽゚*)o)))

リクエストは「ブルマに振り回されるベジータ」です。

ブルマさんが大人っぽいのが強調されてて素敵♪
そして理解できなくてキョトってるベジータ…か、可愛いすぎる…っ!!!(//∀//)

ブルベジ(ベジブル?)なのにハチャメチャでなく、温かいお話しで私のツボにハマりまくりました☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆


本当に素敵な小説&相互記念ありがとうございました☆

これから どうぞ よろしくお願い致します♪


2012.8.03






[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ