短篇集
□知的悦楽主義生物
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それからボクは折を見てアナタに会いに行きました。
気になったんです。特別な危険分子だからじゃありません。
アナタに会って、目を見て、声を聞いて、悟ったからです。
この人は自分と同じ生物だと。
最初のうちは相手にもされませんでしたね。
それでもボクが根気よく話しかけていると、慣れるにしたがってぽつりぽつりと言葉を返してくれるようになりました。
そのうちボクは、アナタがボクの興味対象でもある科学技術研究の方面に関してのみほんの少し、違う反応をすることを知りました。
初めて話の通じる人を、ボクは見つけたんです。
薬品や道具の開発案を練りに練ったり、特定の種族を分析しつくしたり、実験したり、そういったことに対する愛情に近い執着が血にしみついている、ボクと同じ人を。
もはや嬉々としてアナタと話しに行くボクに、アナタはうっとうしげにしながらも暇らしく、頭の中の未だ叶わぬ研究の話を聞いてくれました。
時たまフウムと唸ったり、「なかなか興味深いネ」だとか、反対に「話にならんヨ」だとか言葉少なに返すアナタの声に、少しずつ、ほんの少しずつ力が戻っていくのを、ボクは感じていました。
*
やがてボクは夜一さんの推挙のもと、十二番隊の隊長に就任しました。
反発を受けたり、励まされたりしながら、頭の隅ではずっと同じことを考えてました。
ボクの研究を最後まで形にしたい、十三隊にとっても間違いなく必要になるはずの「科学者」という生物に、居場所を与えたい。
そうして出来ていった技術開発局の構想、ボクはもう一つ、考えてたことがあります。
アナタと研究したいって。その力があれば、きっと素晴らしい組織を作れるって。
その時ボクにはもう、ほとんど見えてました。
ボクの跡を継いだアナタが、局長として恐ろしい程の能力を発揮する姿が。
隊長になって暫く経ってから、ボクはアナタを口説きに行きました。
アナタの顔を見るその前から、殺し文句は決めてました。
悲しいくらいに現実的でつれないアナタの心を掴む言葉なんて、ひとつくらいしか思いつかなかった、それだけなんですけどね。
「ボクと一緒に・・・ここを出ちゃくれませんかね?」
手始めに簡単な言葉で誘っても、やっぱりアナタは動かなかった。
本当は好きに研究したいはずなのに、この深い牢に閉じ込められて、外の世界に対する希望をアナタはまるごと失っているようでした。
「アナタの力が必要なんス」
「浮薄な嘘は止め給えヨ。骨まで透けて見えるようだ」
ボクがせっかく素直に思いを伝えたというのに、アナタときたら綺麗な言葉でけんもほろろにボクを繰り返し振ってくれちゃうから。
少しして諦めたボクは殺し文句を使いました。
「悪い話じゃないでしょう。アナタはボクの次の地位。つまり、
ボクが死ねば、全てはアナタの思いのままだ」
・・・にやりと、笑う。
アナタの眼がはじめて、獰猛に光りました。
*
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