短篇集
□神を殺す日
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ある日の研究を終えた帰り際、ネムはマユリの訝しげな視線を感じて首を傾げた。
「お前先ほどから、何を笑っているのかネ?」
「いいえ、笑ってなど、おりませんが」
いつもの淡々とした口調で答える。
そうかネと荷物を整理する手元に視線を戻したマユリを見ながら、ネムは内心安堵の息を吐いた。
実際笑ってなどいなかった。だが心の中には高まるさざ波が立っている。
何故わかったのだろう。
さすがは私をお造りになった、「神」というところか。
そう、ネムは今日、ある計画を実行に移していた。
それは他でもないマユリに、仕返しというものをしてみようということ。
今まで受けた暴力や罵言、冷静なネムにはマユリが何を思ってあんな行動に出るのか想像しても理解できない。
ならば、研究してみたらどうだろう。科学的に、理論的に、この人を理解する事ができるかもしれない。そう思った。
まず眠らせて。
どこを「開けて」みようか。
どこを「刻んで」みようか。
何も考えていなかったが、普段マユリと同じものに向いているネムの研究者としての関心は今や、マユリ本人に向いていた。
思い立った瞬間からネムの精神状態はどうかしていた。
気付きながら、あえて錯乱した精神にネムは身を任せていた。
「・・・む、いかんネ・・・今日は、どう、も」
途切れ途切れにそう呟いたのを最後に、荷物をまとめたばかりのマユリはばたりと床に倒れ伏した。
今日は朝から、麻痺・催眠効果のある薬を調合して少しずつ彼に投与しておいたのだ。
局の仕事が終わるまでは動けて、局長室に戻ってから効果が出るように細工しておいた。
ネムとて涅マユリに全てを叩きこまれた科学者、そのくらいは造作もない。
何よりマユリはネムに対してだけはひどく無用心だ。
「マユリ様、どうされました。マユリ様」
何度かゆすって名を呼んで、起きないことを確認する。
成人男性にしては軽い痩躯を肩に抱え上げ、ネムはふわりと笑った。