短篇集
□宴に泣く
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『宴に泣く』
「雪、見・・・ですか?」
涅ネムはかくりと首を傾げた。
「そーよ♪今夜。京楽隊長が言い出したらしいんだけどね」
笑顔で返しながら松本乱菊はネムの仕草に彼女の父親の仕草を思い出す。
「ホラ、あの人って何かにつけて飲みたがるじゃない?」
「はぁ。」
それは乱菊のことではないのか。
ネムはどうやら酒宴に誘われているらしいと理解した。
「そう、で最近雪が降ってきたから、みんなで雪見ながら優雅に飲まない?って、誘って回ってるところなのよ。
更木隊長達や修兵はもう来てて、七緒も京楽隊長に引っ張られて来ると思うし・・・色んな隊から、結構人集まりそうなの。ね、あんたたちも来なさいよ!」
「『たち』?」
「ん?一応あんたと涅隊長も誘いに来たんだけど。後で局員の人達にも声かけてみるわ」
「そうですか・・・。今日の分の実験は既に終わりましたし、都合はつくと思いますが・・・マユリ様に訊いてきますので、お待ち下さい」
そう言って踵を返すと、既に一杯飲んだようにうきうきと楽しそうな乱菊が追いかけてきた。
「もー、しょうがないわね!あたしも一緒に・・・あと、」
きょろきょろと乱菊は周りを見回す。
「おーい、やちる行くわよー!」
あらぬ方向に乱菊が声を投げると、その方向からどんっと音が聞こえた。
「わーーい!!」
ものすごい勢いで飛び降りてきて乱菊の隣に降り立ったやちるは、瞬く間にネムの横をすり抜けて勝手に局長室へ走っていく。
「あっ・・・」
「マユリーン!」
ネムの制止する間もなく、ばたんと局長室の扉が乱暴に開けられた。
「何だネ君、何をしに・・・わ!ああっ!止め給えヨ!そこの資料をかき回すんじゃないヨ!!聞いているのかネ、オイ!!」
叫び声に慌てて駆け込むと、局長室の入り口からそのまま跳んで机の上に載ったらしいやちるが椅子に掛けた涅マユリの目の前に座っている。
繰り返すがそこは机の上である。丁度局長である彼が執務中だったと思われる、資料が山ほど載った。
ばん!
極限まで不愉快そうな顔をしたマユリが両手で机を叩いて立ち上がる。
「我慢ならんヨ!今日という」
「「「今日は!!」」」
「・・・ん?」
自分と同時にやちると乱菊の口から発された同じ言葉に、マユリは一瞬口を閉ざす。
やちると乱菊の顔を怪訝に見比べた次の瞬間、がばっ、と両脇を抱え上げられた。
「雪見なんですよー!!」
「雪見なんだよぉー!!」
「・・・雪見、だそうです。」
再度同時に声を上げたやちると乱菊から少し遅れてネムが言う。
何だネそれは私の知ったことではないヨ、と言いたかったが顔の正面にやちるがへばりついている。両脇はがっしりと抱えられ。
(君らは私に喧嘩を売りたいのかネ!私は忙しいんだヨ!それにネム!こいつらに加担して私を拘束するとはどういう了見だネ・・・!!!)
不愉快の極致、迷惑千万。
言葉を塞がれたマユリは心の中だけで、声をかぎりに叫んだ。
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