短篇集
□知的悦楽主義生物
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二番隊第三席兼、隠密機動第三分隊「檻理隊」部隊長を務めていた頃、ボクはある人に出会いました。
副隊長でもないのに、親しい夜一さんの部下としてある程度、いやかなりの身勝手を許されていたボクですが、さすがに何でもしていいわけではありません。
それにボクなりの遠慮と言うものもありました。
頭の中にはたくさんの大がかりな研究の構図が溜まっていき、しかし権利も場所も人手もそれを現実にするには遠く追いつかず、そういう意味においてくすぶっていた時代――
『知的悦楽主義生物』
ある日、任務にお供したボクに、夜一さんが思い出したように言いました。
「喜助。今度、お主のところに新しい『危険分子』が来ることになった。」
「・・・っていうと、檻理隊っスか」
「無論じゃ。ただ、今回来る者はいつもの部屋ではなく、その階下の檻の中に送るようにとのことじゃ。」
「檻の中に・・・?初めてっスね」
「ああ。宜しく頼むぞ。お主なら問題ないとは思うが、気をつけろよ」
「・・・はい。」
ボクは少しびっくりしました。
今まで何十人もがあの檻理隊の門の中に入っていきましたが、地下の広間のさらに下、個人牢の中に閉じ込められた者は少なくともボクの着任後一人もいなかったからです。
空っぽの牢を眺めて、ぼんやりと考えました。
あそこに閉じ込められる者とは、あの広間にいる人達よりさらに危険な人物とは、どんな人なのだろう。
不謹慎ですが、ボクは少し、わくわくしていたんです。
*
当然、本人より先に書類がボクのところに回ってきました。
名前、簡単な経歴、危険視の事由、そういった事務的な記述に順繰りに目を通します。
「涅マユリ」。
上も下も変わった名前だなぁ、珍しく女の人か。
そんなことを思いながら少し下に視線をずらすと性別の欄にはしっかり「男」とありまして、それがアナタに予想をひっくり返された最初の経験でした。
・・・なんて失礼ですかね、あはは。
それからなかなかに錚々たるアナタの危険視事由をざっと読み終えたところで、特別檻理棟の中で待つボクのもとに、本人到着の報せが来ました。
いよいよか、と珍しく少し緊張しながら迎え、初めて直接目にしたアナタは言っちゃあ何ですが名前よりもずっと変わってました。
透き通る藍色の髪に金色の瞳、着物から伺える肌はどこも白く塗り固められ、目の部分だけが表情を隠すかのように黒く塗り分けられていて。両耳に嵌まったその金属、目的とか製法とか材質とか、色々気になることに突っ込むのをボクはなんとか堪えました。
その黒猫のような両目でボクを射すくめて、地下の最奥にある牢に幽閉することを告げたボクに、刺々しい空気を全身に纏ったまま、アナタは薄く口を開きました。
「・・・好きにし給えヨ。」
刺々しいその空気に似合わない、どんよりと気力を失った声でした。
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