短篇集

□花愛づる鬼
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 技術開発局。
 普段阿近達が集まって菓子を片手に各々の仕事を片付けている大研究室には、いつも居る同僚達の姿はほとんどない。

 通常は局長に付き従ってほとんど席にいることはないが、その研究室の片隅に、涅ネムの机もある。
 研究員があらかた現世に出払っている代わりに、いつもいない人間がぽつりといる光景は、非日常的ですらあった。

 珍しく机に掛けているネムに、阿近は近寄る。

 「局長は」
 「現世に検体採集に出向かれております」
 
 ぶっきらぼうに訊くといつも通りの淡々とした応え。
 どうやら同僚達は、出払っているというより局長の仕事に挙ってついていったらしい。
 阿近も行きたかったが、今ここを空けるわけにもいかない。全部俺に押し付けていくとはいい度胸だと心の中で毒づく。
 見れば一見無表情であるネムの顔にも、少し陰りが見える。

 「暗いな」

 感じたままを言うとネムはちらりと視線を上げた。
 聞き返される前にもう一言を重ねる。
 
 「寂しいのか」
 
 少し阿近を見て、目を伏せたネムは遠い目をする。
 ここにいない誰かを見ているようだ。
 
 「―――いいえ」
 「だろうな」

 間を空けて言葉では否定したネムに、ほとんど語尾を遮るように阿近は言う。
 
 「そう言うように、俺が調整したんだ。あんたを造るとき」

 口調がなぜか険を帯びてしまう。
 自分は何に苛立っているのだろう。
 事務仕事を自分に押し付けて現世へ旅立った仲間たちのことは、既に頭にはなかった。
 
 「阿近さん」
 
 ようやくまともに顔を上げたネムに、阿近は問い質す。
 いつだって局長に振り回されて、きりきり働いたりじっと堪えたりしているはずの彼女。
 こんな日くらい自由を楽しんでもいいのに、彼女はむしろ寂しいような物足りないような、翳った表情で机に向かっている。
 もどかしい思いがした。

 何だってそんなに、あの人のこと。
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