短篇集
□目は口ほどに物を言い
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『目は口ほどにものを言い』
「ほい、これでオッケーっす。」
「おう」
「ちったぁ大事に扱って下さいよ?こんな小さなモンでも俺ら頑張って作ってるんですから」
出来上がったばかりの新しい眼帯を渡して、俺は更木隊長に苦言を呈する。
へーへー、なんて言いながら隊長は向こうを向いて眼帯を替える。ふわり、周囲の霊圧が一瞬膨れ上がっては収まる。
…聴いちゃいない。よくあることだ。
「用が済んだら早く出て行き給え。野蛮人が長居するだけでも空気が乱れて不愉快だヨ」
涅局長がまた喧嘩を売るようなことを言って追い払うように手を振る。
大事な顧客にシツレーなこと言ってくれちゃって、それで気ぃ遣うの俺達局員なんだけどこの人にはどうでもいいことなんだろう。
あんだとコラ?戦る気かテメェ?などと更木隊長が凄むので、局長がこれ以上煽らないうちに俺は同僚と数人がかりで謝りながら押し止めた。
仕事中の研究室内荒らされたらたまったもんじゃない。
「邪魔したな」
来る時より不機嫌そうに、それでも俺にはちゃんと挨拶して更木隊長は局を後にした。
本当、局長の居る時にこの人が来ると一々ハラハラさせられる。
もちろんあんたが要らねぇ喧嘩売るからですよ、涅局長。
更木隊長を見送って机に戻ると、迷惑させられたとでも言いたげな苦々しい表情で涅局長も奥に向かって踵を返した。イヤ、迷惑してんのこっちなんだけどね。
過剰なまでにあの人を嫌うあんた。もしかして同族嫌悪って奴だったりして。
「十二」を負った背を見送って溜め息を吐く。
・・・言ったら殺されるから言わないけど、あんたって結構更木隊長と似てる。
素直を通り越してもはや迷惑なレベルで自分の欲望に忠実な人。
イライラすれば怒鳴ったり暴れたりするし、ちょっと提出物が遅れただけでもバンバン机を叩いて催促したり。反対に楽しい事があれば気持ち悪いくらいにやにやする。
それに何より、仕事中のあんたはまるで獲物を前にした肉食獣。
ぎらぎら目を輝かせて、面白いコトは蟻一匹ぶんも見逃さないって勢いで。
そ、戦場の更木隊長と一緒だ。
幼稚な怒りも、知に対する貪欲さもあんたの目は鏡のように映す。
「顔色を伺う」って言葉があるけど、あんたはそうして表情を読まれるのを拒むみたいに面妖な化粧で外界との間に結界を張る。
そして俺達局員は顔色を伺うかわりに、その金の目を読み取る。
粗暴な態度の裏にどんな原因があるのか、本当に求めているのは何なのか。
まぁ、読もうと頑張らなくたって大抵はすっごく判りやすいんだけど。
顔ならぬ、「目に書いてある」ってやつ。
「・・・莫迦かネ君はッ!!」
ヒマなことを考えてると、奥から罵声が飛んできた。
そのすぐ後に、ごめんなさいっ、という声と何かが割れるような音が続く。
今回はネムちゃんじゃないみたいだ。