短篇集

□神を殺す日
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 貴方の目に映る、深遠にして狭小な世界。

 その中に私は、人として存在しているのでしょうか。


 『神を殺す日』




 涅ネムは十二番隊副隊長にして技術開発局の幹部でもある。
 とはいえ行動の自由は他の局員に比べ極端に制限されており、副隊長や研究員というよりはいつも斜め前を歩いている男の秘書のようなものだ。
 もっと有り体な言葉を使うなら、下僕、付属品、そういった表現がふさわしい。
 職務中を含めた生活全般の中であらゆることに使われ、時にはその癇癪にあてられて理不尽な罵声や暴力の的となることも珍しくない。
 それでも絶対的な服従を不文律のうちに強いられている自らの状態について、ネムはそう思っていた。

 十二番隊隊長及び技術開発局局長、涅マユリ。

 ネムの上官であり、数十年前ネムを「作った」男だ。
 薄鈍だとか莫迦だとか、ことあるごとに罵り殴る蹴るを繰り返す割には頑なにネムを自らの「作品」ではなく「娘」と呼び、重要な実験や任務の時には必ず付き従わせる。
 今日もマユリが負った流魂街への出向の任務にネムが同伴し、研究を中断させられた苛立ち紛れに驚くほど些細な事で罵声と暴力を受けてきたところだ。

 不満に思った事はない。
 行動の選択権が少なくとも、ネムがしたいと思う実験は大方マユリがしたいと思うものと同一であり、好きなものも嫌いなものも、思考・嗜好の向く方向をマユリと同じに作られたおかげで不自由を感じることもなかった。
 暴力を受けながらも「娘」と言って貰えることに、希望を見出してもいた。

 ただ、蟠りのようなものを感じていることは事実だった。

 ネムは最高傑作の義魂として理不尽を理不尽と判断できる頭脳も、親に思うさま罵られて衝撃を受ける心も持ち合わせている。
 そのネムに対して、「私の技術の粋を結集した」と言いながら罵声を浴びせ、毎日のように細密なメンテナンスを施しながら殴る蹴るの暴行をはたらく。
 どうしてだろう、彼は何を考えているのかと疑問を感じていた。

 その感情を「つらい」と呼ぶことを、ネムは知らない。
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