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□東方伝記10
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それから私は兄上に医者を呼んでもらい
改めて懐妊の事実を聞かされる事になった
医者が兄上に漢方が入った薬包を手渡してから部屋を出ていくと
兄上は心配するように眉毛を下げて私の頭を撫でてくれた
「子供…。身籠ったんですね。…体、大事にしないと」
「うん。神様が与えてくれた大切な命だから」
「困りましたね…。皆にどう説明しましょうか」
「私達が兄弟であることは皆知らないんだから、この際兄上と籍を入れるよ(笑)」
「ハッ、皮肉なものですね。でも、それが一番疑われなくて済みそうです。…特に、奥様には」
「…そう…だね…」
私は奥様の言葉を思い出し、再び暗い表情で俯いてしまう
本音とは真逆の気持ちを綴った偽りの文を送ったこと
本当は愛しているのに
想うことさえ許されない
「瑠美…。大丈夫。僕も旦那様も、瑠美を守るから」
「ありがとう。兄上」
兄上はスタッと立ち上がり、薬を飲むように、と促してから
部屋から出ていく時に
もう一言だけ私に問いただす
「瑠美は今も、旦那様を愛していますか?」
「…うん。愛してるよ。私の心の中には、旦那様しかいない」
「………良かったです」
そう
私はどんな現実が訪れても
どんなに辛い窮地に立たされても
旦那様を想う気持ちだけは変わらない
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