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□東方伝記4
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ついに今日は若様と世子妃の婚礼の儀



家臣達は勢揃いで整列し、女中達も豪勢な料理と美酒を用意する




私はその様子をどうしても直視できなくて、台所の雑務を引き受けた





今日で若様は殿下から家督を形式上受け継ぐことになり



若様から旦那様になる



よって



世子妃も奥様と呼ばなければならなくなるのが




私にとっては酷なことだった













この先の事を考えては落胆し、気を紛らわそうとしても


周りが婚礼ムード一色になっていて


嫌でも現実を受け入れざるおえない












若様は今


どんな気持ちなんだろう












“忘れないで”と言われた言葉の数々が





やがては消えてしまうんじゃないかと不安になる








こんなに近くにいるのに






私と貴方の距離は遠くなるばかり

















「…見に行かなくていいのかい?」



「あっ…はい。これからもっと忙しくなるし、人手は沢山いた方がいいと思うんで」



「有り難いねぇ〜。ったく、他の女共はサボりに行っちまったよ」









物思いにふけっていると



フネさんが私の様子を気にして話し掛けてきた



私が無理に明るく振る舞っていたのを


フネさんだけは気付いているようだった















「フネさんは…見なくていいんですか?若様の大事な行事だし…」



「そうだけど、私がここを離れたらもっと仕事が大変になるさね(笑)」



「で、ですよね…」



「まぁ、若様の相手が瑠美だったら仕事投げてでも見に行くよ。あんな建前だけの式なんて、見る価値がない」




















フネさんの素直な言葉に



少しだけ心が救われた気がした




そして





その気持ちが嬉しかった



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