Travel

□東方伝記
1ページ/4ページ



━時は遥か昔にさかのぼる









































「瑠美!!今日の朝飯はなんだ?」


「若様…!私は見ての通り洗濯を任されておりますので…」


「あははーはーはっ。知っている。そなたを見掛けるとついからかいたくなるのだ。…ほら、花弁がついたままだ」



「あっ…///」













そう言って、朝から爽やかな笑顔で話し掛けてくるあなた



私の髪についた桜の花弁を指ですくいとり、もう一度風に乗せるあなた





廊下を歩く姿さえ絵になるくらい優れた容姿のあなた




この密かに抱いてしまった気持ちは



誰にも知られてはならない



















「若様は瑠美に御執心だねぇ〜」


「ふっ、フネさんっ!!」



私が洗濯物を桶に持ったまま彼の後ろ姿を見つめている所に


ちょうど背後から話し掛けてきたフネさん



彼女はこの鄭家に一番長く務めている女中で


女中達をまとめるリーダーのような存在


私にとっては母同然のような存在でもある












「そんなことないですっ。私は只の女中の一人ですから…」



「そうかい?長年若様を見てきたけど、お前と話す時だけ随分と楽しそうだ」



「気のせいですよ。若様は皆に平等に優しいですもん」












鄭家の御世継ぎ


世子である長男のユンホ



至って真面目で誠実


慈悲深い瞳が特徴で


どんな人にでも対等に向き合い、力になろうとする


そんな彼を家臣達は皆心から慕っていた





私も同様に、彼に助けられたうちの一人だ















「若様もいい歳なんに妾一人も作らんで。あの容姿だから見合いの話ぐらい出てもいいのにねぇ」


「はぁ…、そうですよね」



「この際お前が側室(御妾)になればいいじゃろ!正妻は無理でも世継ぎが産まれりゃ御の字だ♪」



「ええっっ////!!私がっ!?ぜっ、絶対ありえません!!」








フネさんが言うように




若様は独身の身でありながら、側室にも誰一人置いておらず


周りからは真面目過ぎると言われたり



もしかしたら男色の気があるんじゃないかと噂される程






でもやがては





鄭家の繁栄の為にも結婚はしなきゃいけないし



子孫を作らなければならない







そう考えただけで




胸がチクリと痛む




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ