10000筆頭企画

□薄闇の芳香
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「はぁ、あ……んっ」

重なり合い、絡んだ手がどちらともなく強く握られる。二人分の体重と激しい動きに耐え切れず、ベッドのスプリングは大きな音を出して軋んでいた。
二階に幾つかある個室の一つに連れ込み、小十郎は佐助の身体を割り開いた。白いシーツの上に晒された彼の肢体は、それに良く映えていた。
媚薬を盛られたという身体は薄らと赤く色づき、もう既に彼自身は反応を示し先走りを零していた。酷く扇情的な佐助の姿に、小十郎は耐え切れず舌を絡ませる口付けをしただけでそこを愛撫し始めた。
下手な前戯などない、性急な行為。恋人同士でもないのに、激しいそれに佐助は嬌声を抑えることはしなかった。

「あぁ、ん……こじゅ、ろ……さぁんっ」

「辛く、ないか……っ?」

媚薬の所為で感度が良くなった身体は、どんな些細なことでも快楽に変換してしまった。小十郎の節くれ立った指が、素肌をなぞるだけでも腰が疼く。
初めてとは思えない佐助の中に、小十郎は激しく腰を打ち付けたくなる衝動を抑えこんでいた。猛りを受け入れる中は、熱くうねり決して話すまいと言う様に締め付けてきた。
自身を咥えて喜んでいる様な中の動きに、小十郎もまた感じていた。

「は、あ……もっと、して、い……んあぁ」

「駄目だ、猿飛」

「あ、あ、ん……っ、駄目じゃ、な……ぁ、ん……」

奥から湧き上がってくる快楽に溺れながら、佐助は言葉を紡ぐ。小十郎と身体を繋げている今だけでも良いから、恋人の様に扱って欲しかったのだ。
こうして抱かれることはないと思っていたから、小十郎が好きだからこその感情だ。

「さ、すけ……はぁ、あ……佐助って、呼んで……」

「……注文が多いな、佐助」

「はあぁっ、んんぅ……っ」

囁きと共に、最奥へと小十郎のものが到達した。そのまま抉る様に腰を揺さぶられると、もう口からは甘い吐息と喘ぎしか出なくなってしまった。
与えられる快楽の強さに耐え切れず、佐助は絡ませた手を指先が白くなる程握り締めた。爪の痕が残っているが、小十郎には痛さなど感じられなかった。目の前に居る、酷く艶めかしい存在に酔いしれるだけであった。

「こじゅ、ろ……小十郎、さ……ひぁ、ん、んぅ……っ」

「……っ、佐助」

戯言の様にお互いの名前を呼び、どんどん近付いていく絶頂に向けて律動を速める。一度入り口付近まで自身を引き抜き、最奥までまた貫く。
何度か繰り返す内に、佐助は大きな嬌声を耐えることなく上げて達した。小十郎も、中の締め付けに翻弄され抜くことも忘れて佐助の中に欲望を放った。

「はぁ、は……熱、い……っ」

「……悪い」

「良い、よ……。ね、小十郎さん……」

「何だ?」

「好きって、言ってよ。嘘でも、良いから……」

そう言って、笑みを浮かべながら腕を伸ばす佐助。小十郎は彼の言葉に、小さく首を振った。

「嫌だ」

「何で……? 嘘なら、良いでしょ?」

「『嘘』だから、嫌なんだよ」

小十郎がそう言うと、佐助は不思議そうな顔をした。
彼は行為の最中、気付いてしまったのだ。何故、佐助だけは客と店員という立場を越えて付き合えたのか。何故、素の自分で接せられたのか。
それは、自分でも気付かない内に佐助のことを想っていたからだ。自分の気持ちは愚か、彼の気持ちにすら気付かなかったことが悔やまれる。

「俺は気付いた。俺も、無意識下の中で……佐助が好きだった」

「――っ!? 嘘……」

「今更、嘘なんか吐いてどうする?」

「んっ、小十郎さん!」

嘘など吐ける状況などではないということをわからせる為に、小十郎は未だ繋がったままの中を軽く腰を揺す振って刺激した。
いきなり与えられた痺れに肩を揺らし、次いで佐助は真っ赤になって彼に抗議した。だが、その顔には疑う様な表情はもうなかった。

「……夢みたい。小十郎さんと、両想いなんて」

「俺もこうなるとは思ってもなかった。じゃあ、もう一回やっておくか?」

「ちょ、小十郎さん!? じゃあの意味がわかんな、ぁ……ん、あぁ……っ」

そして、二人がバーから出て来たのは閉店時刻が一時間も過ぎてからのことだった。










→後書きというかお礼
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