10000筆頭企画

□その心は
1ページ/5ページ

「Good morning.」

またか、と楽しげな声を聞きながら小十郎は思った。億劫そうに瞳を開ければ、目の前には予想通り楽しそうな笑みを浮かべた政宗が居た。
小さな頃から世話を任され、二人は一つの家に住んでいた。その頃から、この様なことが続いているのだ。
そう、それは政宗が小十郎に執拗に構って貰おうとしたりくっついたりする行動だ。
正直、小十郎としてはうんざりとしていた。自分にはやることがあるのに、彼はそんなことを関係なしに近寄って来る。政宗が学生だから、と言えば尤もなのだが。

「……支度は出来たのか?」

「O.K. ばっちりだぜ? 後は、小十郎の飯を待つだけだ」

以前、今と同じくして眉間に深い皺を刻みながら聞いたことがあった。何故、この様なことをするのかと。
そうすると、政宗は至って当然の顔をして好きだからと返してきた。その言葉を聞いた瞬間、驚きはしたが別段何も感じなかった。
その時は、程々にしろと注意して終わった筈だと小十郎は思いその時の自分を恨んだ。
元々、政宗は言っても聞かないタイプだ。本当に止めて貰いたいなら、口を酸っぱくして言わなければならない。それをしてこなかったから、今のこの有り様だ。
朝起こしてくれるのは有り難いとは思うが、その後は嬉しそうな顔をして小十郎にひっついてくる。昔の政宗を見ていたからその表情は崩したくはないと思っていたが、如何せんこの状況に納得出来なかった。

「……ったく。ほら、さっさと離れろ。食いっぱぐれても良いのか?」

「それじゃ駄目だな。何せ、小十郎の飯は美味いからな」

好き、という気持ちをあの様に平然と告げて近付いて来る。そんな政宗の心を、小十郎は除いてみたいと思っていた。
普通なら、相手を意識して余所余所しくなるものではないのかと小十郎は思った。だが、政宗には一緒に居たい、恋人になりたいという思いが強いらしかった。
積極的と捉えて良いのか無鉄砲と捉えて良いのかわからない行動だが、他の人に迷惑がかかっていないことだけは良いと小十郎は思っていた。だが、それは彼だけの思いだけであったが。
実際は、政宗がくっつく度に恋人なのかという生温かい視線を送られていた。それに、小十郎は幸か不幸か気付いていなかった。
茶碗に米をよそう間も、政宗は小十郎のことを熱っぽい視線で見つめてくる。

「……見るのは止めてくれないか?」

「Why? 好きな奴のこと見て、何が悪いんだよ」

「……」

これもまた当然の様に返ってきた言葉に、小十郎は沈黙を返した。
難しい顔をして自分の分の米をよそい始める小十郎を見て、政宗はほんの少しだけ悲しげな表情をした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ