10000筆頭企画

□闇を翔ける鴉
1ページ/4ページ

俺の鴉が消えた。
ちょっと目を離した隙に……全く、あの子はもう。そう思いつつも、俺はきちんと探しに来てやっている。
確かに、忍と同じで鴉にも替えがある。けど、俺は自分が使役する動物に対して非情になることは出来なかった。
そこが甘い、と言われれば元も子もないけど……やっぱり、長年付き添ってきたあの子のことは大切。だから、空へ帰ってしまわない様に俺が探しだしてあげなきゃ。
あの子のことを思いながら指笛を吹いた。いつもなら、ここで何分かしたら俺の所に来る。けど、今はそれを待ってはいられなかった。吹きながら、前へと足を運んで行く。
すると、遠くの方であの子の鳴き声がした。近くに居るということがわかって嬉しい反面、何をしに行ったのかがわからなかった。俺の言う事は、ちゃんと聞く良い子なのに。

「……げ」

鳴き声もすぐ近くにあり、さぁもう連れ帰ろうと言う時そいつはそこに居た。何故か、俺の鴉を腕に乗せて。

「……」

あちらさんは、俺の気配に気付いたらしく首を少しだけ傾げた。その首が、この鴉が俺のかと聞いてる気がしてそいつ……伝説の忍、風魔小太郎に近付いて行った。

「まさか、あんたがここに居るとはね……。その子、返してくんない?」

「……」

俺がそう言えば、そいつは俺に向かって腕を伸ばしてきた。そこにちょこんと居た鴉は、つぶらな瞳で俺を見た。おいでと一声かければ、鴉は俺の元にきちんと帰って来た。

「この子、勝手にあんたん所来たの?」

「……」

「それとも、あんたが呼んだとか?」

「……」

質問を二つ程投げかけた後、そうだったと俺は納得した。こいつ、風魔小太郎は口を開いて言葉を紡がないことで有名だった。
喋れないのか、はたまた喋らないのかはわからない。それと共に、表情が皆無なのも噂には聞いていた……けど、これ程だとはね。
一方的に話題を振って答えない、とかいう無意味にやり取りはしない方が良い。その方が、俺も早く旦那達の所に戻れるからね。

「……今回はありがと」

同じ忍相手だから、取り繕う必要はない。俺は表情という表情を見せずに踵を返した。すると、不意に俺の腕が引かれ後ろへとつんのめる。

「……何」

「……」

腕を掴んでるのは勿論こいつで。でも、どうしてこんなことをするのかは俺には知らないし知りたくもない。どうせ、こいつが俺を呼び止めるってことは不吉なことで違いないからね。
不機嫌そうなのを、珍しく全面に出して俺はそう問う。どうせ、返ってくる筈のない答えに期待はしてない。さっさと、腕を振り払って帰ろ。

「……その鴉、良い子だな」

「……は?」

ちょ、ちょっと待って? 今、こいつ何て言った? 俺の鴉が、可愛い? いや、確かにその言葉自体にも驚いてるけどそれよりも! 今、こいつ喋ったよね? 喋ったよね!?
そんな感じで混乱してる俺を差し置いて、そいつは口元をほんの少しだけ動かして笑った。

「……また、会わせてくれ」

喋らない、表情を見せない……そんな肩書きを背負った忍はそれと正反対のことをしてみせてくれた。
何? 喋るんなら、どうして今まで何も言わなかった訳? 喋れたなら、松永にも反抗出来る訳でしょ?
無意識に、眉間に皺が寄っていた。それを目聡く見ていたのか、こいつは俺の腕から手を離した。

「……不思議、か?」

「いや、当たり前でしょ。あんたが喋ったり笑ったりすんの、流石の俺様でも知らないしね」

「……だろうな」

そう言って、俺から目を逸らした。……正直、もう関わるのはこれっきりにしたい訳なんだよね。俺としては。
こいつが喋ったって喋らなくたって、俺達は忍。馴れ合いってなもんは必要ない。

「……でも、良ければまた会いたい」

「は?」

「……駄目か? 俺が、お前に会いたいと望んだら」

俺の鴉に、とさっきまでは言ってた癖に……本当は俺狙いな訳? これも罠か、と俺は見えない表情を探ることにした。
けど、その詮索や警戒は全て打ち壊されてしまった。また、こいつは笑っていたのだ。常人だったら、見落としそうなくらい薄く。

「……ま、機会があったらね」

「……」

本当、調子狂う。絶対、こっちからなんて会ってやらないんだから。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ