平和と家

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「まずはこの猫だよ」

ウラーノは笑顔で言った。太陽が高く昇る昼日中、名前はついに生物を操る方法を習った。

『…ごめんね』

名前は小さく猫の体に傷を付けた。猫はみ゛ゃっ!なんて言って傷ついたことに気づいたようだった。心地よい濁音にいつもうるさい作戦隊長を思い出し、ここ数日何度痛んだかわからない胸がまたちくりと痛んだ。

血が触れると、名前の剣は強く脈打ち始めた。そして熱くなった。

『熱っ…!』

思わず離しそうになるがこんなものでやられちゃいけない。これをいつしか実戦で使う日のために少しでも慣れなきゃならないのだから。碧かったはずの剣は血が触れたところから赤くなり、血赤色のような色をしていた。ウラーノは物事が順調に進んでいるのがわかるほど笑顔だった。

「それが契約しているときの色。あともうその猫は君の思いのままだよ」

ウラーノがそう言ったので名前は猫を仰向けに寝っ転がらせた。次に二足歩行させようと思ったらうまくいかなかった。

「操る物が大きいほど、与える指令が難題であるほど、操る時間を長くさせたいほどより多くの血が必要になる」

マルテはそう言った。名前は猫を回復させてやった。すると少し眉間によっていた皺がとれ、心地良さそうに鳴いた。そんな猫をなでてやる。

『…傷つけたくない』

そう言って。ウラーノは笑った。

「君の夢のことは知っているよ。そのためにしてきたたくさんの努力も、結果もね。だがどんなに賢かろうがどんなに嫌でもこの世界にいれば傷つけることに慣れなきゃならない。」

ウラーノは猫を撫でている名前の顔を上へ向かせた。

「この白い肌もいつの間にか見えない血で塗れてしまうんだよ」

ヴァリアーでは誰も言わなかったことだった。でもウラーノの言うことは間違ってない。名前の甘えを許すような人間でもないだろう。

『…邪魔かな』

「ん?」

『マフィアの中に平和主義者がいるのはやっぱり邪魔なんだよね』

名前はどんな表情をしているのか全く読みとれないような顔で無気力に言った。

「…確かに僕は欲しいとは思わないね。」

ウラーノは怪しく笑う。

「だから君の心だって僕は変わらせるつもりだよ」

ウラーノは笑った。そしてその言葉を最後に、その日の修行は終わった。
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