平和と家
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ルッスーリアとマーモンの戦いから一夜明けた朝だった。名前は朝早くから起きて談話室にいた。…いや、眠れなかったのだ。昨夜、ルッスーリアとマーモンを失うかもしれない、そう思った。失わなくて安心した。だがそれだけじゃない。不安になった。戦いは今日も明日もある。ボスやスクアーロ、ベルを失うことになったらどうしよう、そう思った。大切にしているからこそ抱くこの思い。そんなことを考えていたら眠れなくなった。恐怖や不安ばかりが自分の中を蠢いて、気づいたら涙が流れていた。使用人に飲み物などを勧められたが全部断り、談話室にいた。自分の部屋にいるのが怖かった。一人が怖かった。
ただ朝早いためまだ幹部の誰も起きてはいなかった。いつも一番早いルッスーリアも今は意識を失ったままだ。
ソファに力なく座り、物思いに耽る。そして考えているうちに一つの案に たどり着いた。
(…私が皆から離れればいいんだ)
名前は動き出した。自室に向かい、必要最低限の荷物を準備する。
寂しくないと言ったら嘘になる。…寂しくないわけがないのだ。大切に思う仲間ができ、たった一人の人を愛してしまったのだから。
名残惜しそうに名前は自室の中を見渡した。ベルと一緒に寝たベッドも一緒に買った服も全部思い出。でも思い出の品は置いていこうと思う。ただ一つネックレスだけを身につけて。
準備を終え、名前は自室を出た。その時。背後から声がかかった。
「…何やってんの?」
声をかけたのは…ベル。見つかってしまった。名前はベルの方を向こうとはしなかった。でも返事の言葉も見つからない。
「なぁ、シカト?」
ベルは怒ってる。わかるよ、声色だけで。いつも一緒にいたんだから。
『…ごめん』
ただ口から放たれた言葉はそれだけ。もちろんベルが納得するわけはない。
「…答えになってねーよ」
ベルの手が肩に触れる。いつもは温かい優しい手。今日はちょっと力強かった。無理矢理ベルの方を向かされれば、ベルはたじろいだ。
「何で泣いてんの?」