中編
□3 たまには
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3月になった。まだ寒い日は寒いが、ある程度春の訪れを感じ始めた頃である。
(…てことはそろそろスクアーロの誕生日か)
名前はカレンダーを確認した。あとちょうど一週間といったところである。
日頃一番世話になっているし、一番一緒にいるし、何よりもあまり表には出てこない名前の乙女心が疼く。
(…今年は何あげよう)
本人に聞ければいいのだが、それはつまらない。何をあげるかわかってしまう。まぁここの幹部は基本的に忙しくて、自分の誕生日なんて忘れてる人の方が多いんだけど。毎年ちゃんと自分の誕生日を覚えているのはおそらくベルくらいだと思う。皆他の人の誕生日は覚えてたりするんだけどね。あ、ベルは自分のしか覚えてないけど。
午後のティータイム。談話室には名前とルッスーリアがいた。
『今年は何あげたらいいと思う?』
名前は自分の想いを口外したことはない。ただルッスーリアには感づかれた。それから名前は困った時はルッスーリアに相談するようになっていた。
「まぁスクちゃんならあなたから貰ったものなら絶対何でも喜ぶと思うけど?」
『それはわかってるよ』
自意識過剰ではない。ただ確信がある。長い間一緒にいるからなのかスクアーロの気持ちはちゃんと分かっているつもりだ。
「去年は…剣磨きだったかしら?一昨年は?」
『香水』
何度も誕生日やクリスマスを共に過ごしてきたのだ。さすがにネタだって切れる。
『あーもう。あげるものは一通りあげちゃったよ』
名前はテーブルの皿に盛りつけられたマカロンを口に運ぶ。
「ならとりあえず街に出てみたら?」
ルッスーリアが小指をたててくねくねしながら言った。
「何を買うって決めてからじゃなくてもいいじゃない♪スクちゃんっぽいってあなたが思った物を何か買って来ちゃえばいいのよ!」
そうと決まれば!とルッスーリアが立ち上がった。
『え、今行くの?』
「思い立ったが吉日よ?」
ルッスーリアが30分後またここで、と言って談話室を出て行った。全く大した行動力である。