シリウスに手を伸ばして

□さようなら
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全中からしばらく月日がたった。青峰とはあれ以来話せていない。目も合わせていない。他の人とは話すが、テツは学校に全然来なくなった。何があったか少しは聞いた。でも私も人にフォローを入れられる状態でなかったので、テツには会えていなかった。

入院生活はとりあえず終えて、学校には来ている。そして、そろそろ進路を決めなければならなかった。

ライの今の一番の悩みだった。バスケをしに高校にも行くつもりだったから、どこにしたらいいかなんてわからない。学力はある方なので選ぼうと思えばかなりの広範囲から選べるが、イマイチ決め手にかけるのだ。


一人資料室でため息をつくと、扉が開いた。

『真ちゃん…』

「ライ、探したのだよ。話がある」

真ちゃんの言葉を聞いて、私は高校の資料をとじて机の上に置いた。

『どうしたの?』

「お前高校は決めたか?」

『いや、まだだけど』

「最後はお前が決めることだが…お前、俺と一緒に秀徳に来ないか?」

真ちゃんが言った。

「秀徳は勉強もしっかりしている。バスケもしっかりできる。お前には酷な話かもしれないが、俺と一緒に来て、俺と一緒に日本一を目指して欲しい」

真ちゃんの言葉に開いた口がふさがらないとはこのことだと言った顔をした。

『どうして?』

「俺がお前に来て欲しいと思ってるからだ」

まっすぐな目だった。

『少し考えさせてくれるかな』

「もちろんなのだよ。俺はもう決めた。もし決めたら教えてくれると嬉しい」

『了解』

では、邪魔をしたといって真ちゃんは資料室から消えた。たしかに秀徳は伝統のあるいいとこだと聞く。それにライの学力でなら普通に受かるはずだ。悪くはない。

どうしようかと迷っていると次の来客が。

『あれ?敦だ』

「ヤッホー元気?」

敦は飴を頬張りながら言う。相変わらずだ。

「何?まだ高校探してんの?」

『そうなんだよね』

どれにしようか迷ってて。

「東京のばっかじゃん。東京しか考えてないの?」

『バスケで行くなら地方でもよかったけど学力なら別に東京でもよくない?』

「あーたしかに」

でもさ、と敦は言った。

「俺は秋田に行くことにしたんだけどライちんも一緒に来ない?俺と一緒に来てよ」

またこの手の話かと思った。秋田はちょっと遠すぎる気がした。

『秋田か〜ちょっと遠いな』

「でも監督も綺麗だったからライちんがマネやってくれたら俺頑張れるんだけど」

そういう敦にライは笑った。

『ちゃんと頑張らないとねだめだよ?』

やだやだと敦は言いながら、座っていた机から立ち上がる。

「ま、考えといて」

敦は右手をひらひらさせてその場を去った。今日は随分とみんなとあうような気がした。



資料室から出ると、外にいたのは征十郎。

「やぁ。待ってたよ」

『なんで私がここにいるってわかってるのさ』

征十郎と二人並んで歩く。

「決めてないんだろう、進路」

『うん。バスケでしか今まで見てこなかったからさ。どう見たらいいかわかんないの』

そう困ったように笑えば、征十郎は立ち止まる。

『征十郎?』

「ライ、僕と一緒に来い」

征十郎はそう言った。

『え?』

「僕が行くのは洛山だ。今僕たちの一つ上の代の無冠の五将が三人そろっている。そしてそこに僕も入る」

征十郎はそこで言葉を切った。

「お前がプレーヤーとして見れなくなってしまった世界をマネージャーとして見せてやる。僕と来てほしい」

征十郎が私の方に手を差し出す。その手をとれば、私は京都に行かなければならなくなる。

『もうちょっと考えさせてほしいんだけど』

「待つさ。お前がそう言うのなら」

征十郎は笑ってくれた。
二人で並んで帰る。こうやってバスケ部の人と帰るのは涼太以外とは久しぶりだった。

「送っていくよ」

『別にいいのに』

昔と変わらなければよかったのにね。何もかも。

『ありがとうばいばい』

「ああ。早く家に入れ。夜になると冷えるから」

征十郎はそう言って手を振る。やっと、家に帰ってこれた。今日はみんなと会ったからかすごく充実していた気がする。

青峰は…一体どこに行くんだろう。

涼太はもちろん聞いていた。海常高校。そこもなかなかいいとこだ。

青峰の話はさつきに聞けばすぐわかるだろうか。

その時だった。私の携帯が鳴った。そこには、今思っていた男の名前。

『あお…みね??』

なんかの間違いかと思った。もう私たちは何もなかったかのように他人のように生活していたから。


『…もしもし』

「おう。久しぶりだな」

その声に涙が出そうになった。ちょっと離れただけなのに。すごくひどく懐かしい。


『元気にしてた?』

聞かなくてもわかっていた。私の目は今でも青峰を追っていたから。

「おう。お前はどうだ?」

『元気だよ。足も少しずつ治してる』

「そうか…」

沈黙が生じる。

「お前高校どこ行くんだ?」

『まだ決めてない』

「…なぁ、俺と来いって言ったらお前はどうする?」

『え?』

今更何を言いだすんだろうこの男は。

「俺は桐皇に決めた。さつきも来る。お前も来いよ」

これを言いながら青峰はどのツラ下げてこんなこと言ってるんだ俺はなんて思っていた。

支えてやれなかった。一番辛いのはライのはずなのに、俺と一緒に1on1してくれるやつがいなくなったこと。俺の大好きなプレーヤーがいなくなってしまうこと。そういうことに俺が悲しむのにいっぱいいっぱいになってしまっていた。こういう時こそ支えてやれたらよかったんだろう。でも、俺は何もしてやれなかった。何もしていなかった。


『東京に残るんだね』

「ああ。お前はどうすんだ。早く決めねぇとやべぇぞ」

『青峰と違って私はちゃんと勉強してきたから大丈夫だよ』

「うるせーな」

昔と変わらないような言い合い。でも、たしかに何かが変わってしまっていて。

『桐皇には、行かない』

その声は震えていた。まだ好きだったから、震えていた。

「そうかよ。じゃ、お前も頑張れよ」

『うん。青峰もね。さつきのこと泣かせないでよ』

「んなの知らねーよ。…じゃあな」

またなじゃないその言葉。

『ばいばい』

機械音が右耳から聞こえる。私たちは、もうやっぱり終わってしまった。









「ライ。みんなに高校誘われてないっスか?」

涼太とテレビを見ていた。お母さんが作ってくれたクッキーを食べながら話す。

『ああうん。誘われた』

「…青峰っちにも?」

『…うん。ねぇ、私どこの高校に行こうかな』

困ったように笑うライ。
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