シリウスに手を伸ばして

□舞台からの転落
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全中から約1年が経った。3度目の、最後の全中がやってきた。あれから私達は何も変わらなかった。以前とは何かが違うとなんとなく分かりながらも誰も何も言わないままで一年が過ぎてしまった。

「ライ、女子も優勝するんだろうな」

征十郎の言葉に小さく頷く。

『もちろんさ』

誰も笑っていなかった。男バスの雰囲気は刺すようでどうも気まずくなる。青峰の元へ駆け寄る。

『…頑張ろうね』

「頑張ったらつまんなくなんだろうが」

もうずっと君が笑ってプレーしている姿を見ていないね。ライが悲しそうに笑ったのを見たのは誰もいない。



これが、プレーヤーとしての2人の最後の会話となることを、誰が予測できただろう。



2人はそのまますれちがい逆方向に歩いた。

初戦は体格のいいチームとの試合だ。かなりフィジが強い。完全にスピード勝負に持っていくしかない。…まぁ、走り負けるつもりはないのだけれど。


真っ白なユニフォーム。1年間着てきた4番。帝光の文字を背負ってライは立ち上がる。

プレッシャーなんかに負けないよ。身体が大きいプレーヤーにも負けない。だって私は、青峰と同じ舞台に立っていたいんだ。


ブザーが鳴る。試合は始まった。





試合終盤。点差は15点。帝光リードだ。走り負けるわけがなかった。
目に見えて相手のチームはイライラしていた。

このままで済ませてたまるか。そんな小さな声が聞こえた気がした。しかし、ライは次の瞬間コートに倒れ込んでいた。あまりに大きな膝の痛み。ホイッスルが鳴っている。味方が駆けつけてくれたのがわかる。

『大丈夫です…ッまだ出れます!』

残りは1分30秒だった。やられっぱなしですんでたまるか。

普通のファウルとしてとられ、向こうは5ファウルだったのでフリースローを打つ。二本ともはいるが、どうも危なっかしい。でもまだ出ていたい。きっと、これは一時の痛みだとそう信じている。


終了のブザーが鳴る。足の痛みはこの上ないほどであった。仲間が肩を貸してくれた。挨拶をして、コートを出る。

このままで済ませてたまるか。その言葉からライは考える。きっとわざとだろう。でも誰もそのことに気づいていない。私しか。向こうのチームはどうだかわからないが。段々と意識が遠のいてきた。足に力も入らない。


ライはその場に崩れた。意識もない。チームがざわめく。ライは起きない。ライは早急に医務室に運ばれた。膝は大きく腫れていた。明らかに他の人から見れば大怪我だ。それでもライは最後まで意地で試合に出ていた。体の負担は計り知れない。急いで病院に運ばれる。もうこの日女子の試合はなかった。監督たちがライに付き添っていた。


もちろんこの話は男バスにも広がった。試合が終わってからだったが。

「落ち着いて聞け。ライが怪我をしたそうだ」

征十郎がそう告げる。さつきや涼太、紫原、緑間、テツの顔から血の気が一気に引いた。

「は?」

青峰だけが声を出す。

「膝をやったらしい。重さまではまだ分からないが…」

「病院は?病院はどこだよ!?」

青峰は近くの病院だとわかるとすぐに駆け出した。片付けを終えてから他の6人も向かった。
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