シリウスに手を伸ばして

□見つからない
1ページ/1ページ

決勝トーナメント一回戦。

「俺の欲しいもんは絶対見つかんねー」

「俺に勝てるのは俺だけだ」

ライの手からボールが落ちる。

数年前の自分を見ているようだった。ついてこないディフェンス。圧倒的な差に顔が下がりっぱなしの相手チーム。そして、あの青峰の顔。


まずい。

「ライ!?」

『ごめん!ちょっといってくる!試合までにはちゃんと戻るから!』

コートについた時、青峰のプレーは、私が知る青峰のプレーではなくなっていた。危なっかしいのになぜか入る。そんなプレースタイル。

どうして、どうして。

なんで青峰がこんな苦しい思いをしなきゃいけないの。

下唇をかんで、涙が流れないよう耐える。

ねぇ、お願いだからそんな悲しそうにプレーしないで。


ライには、わかっていた。投げやりに見えても、無表情であっても、今青峰が感じているのは悲しさであり、寂しさであることを。


試合が終わったとき、青峰のもとに駆け寄った。

『青峰、「…結構クるよな」

青峰は悲しそうに笑ってみせた。

「こっちがちょっと真面目にやれば、相手は何もしなくなる。俺もうよくわかんねぇわ」

元気出して?わかるよ、その気持ち?あとで1ON1しよう?結局なんて声をかけたらいいかわからなかった。

「お前この後試合だろ?ほら、行けよ」

青峰はそう言って、通り過ぎて行った。

何も言ってあげられなかった。そしてそのあとに続くのは、ショックを受けているテツ。

「あ、ライさん。試合頑張ってください」

違う。違うんだ、みんな私のことなんか気を遣わなくていい。みんな悲しい顔をしてる。それなのにどうしてそんなことしか言わないの?もっと悲しいって叫んでいいのに…

「ライ、3分前だ。行って来い」

征十郎に言われて、気づく。私は思わずうつむいた。

何も声をかけられない。傷ついたのは私じゃなくてみんななのに。私はその気持ちを分かってあげられるのに、何も言ってあげられなかった。

照明がきれいに床に当たって撥ね返っている。

どうしようもなく、無力な自分に腹を立てながら、私はTシャツを脱ぎ、ユニフォームになった。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ