シリウスに手を伸ばして
□ずっと続けばいい
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合宿も終えて、試合まであと2週間を切った。そして、そんな大事な時期でもあるが、その他にも大切なイベントが待っていた。
「ライ!誕生日おめでとうっス!」
涼太がはいっ!プレゼント!といっておしゃれな包みを私に差し出した。
『ありがと』
今日は学校も部活もない日だった。でもご近所の涼太はちゃんと会いに来て、お祝いしてくれた。
「てか今日めっちゃおしゃれしてるじゃないっスか!…あ、青峰っちっスよね」
『な、うるさいな!』
たしかに柔らかい色をした爽やかな色のワンピースを見れば、いつもより可愛らしい格好をしているのは、幼馴染から見れば、一目瞭然である。
黄瀬は小さくため息をついた。
今までバスケのことしか見えていなかったような幼馴染が、突然一人の男子に対してこうなってしまえばそりゃあもう寂しい。ていうかちょっと気に食わない。
こんな風に誰かを意識して、自分を可愛く見せるよう努力してるライなんて…
「まるで女の子っスね」
『まるでってなんなのよ』
そんな言い合いをしていれば、玄関のチャイムが鳴る。
「はーい」
『ちょ、涼太!』
「げ、なんでおめーがでてくんだ、黄瀬」
「彼氏のお迎えじゃないっスか!!いつの間にライも青峰っちもこんな青春の一ページ刻んじゃってるんスか!!」
「何恥ずかしいこと言ってんだてめー!!」
青峰が顔を赤らめて、涼太に肩パンする。
「痛いっス!」
そんな様子を見て、ライはくすくすと笑った。
『ちょっと待ってて。鞄とってくるから』
「おう」
黄瀬は、ライの微笑みを見て、ああやっぱ勝てそうにないなんて思った。
青峰っちが来ただけで、あんな優しい笑顔になるなんてさ。俺に勝ち目なんかあるわけないっスよ。
「じゃ、俺はモデルの仕事もあるしお暇するっスよ」
楽しんで、と言ってドアが閉まる。玄関に残ったのは、青峰だけだった。
そのあとすぐに二人で家を出る。今日は水族館に行くという約束だった。
「ライ!!見ろ!ザリガニいるぞ!」
『ちょっとやめてよ、恥ずかしいんだけど』
「あ、でも雑魚だなこれは」
『そうですか』
ザリガニを見る青峰は初めてそれを見る子供のように目がキラキラしていて、何だか可愛らしいと思ってしまった。
『青峰!ペンギン!可愛い!!』
岸をペタペタと歩くペンギンはとても可愛らしくて、思わず釘づけになる。
『あ!泳いでる!速い!』
ライが楽しそうに笑う。青峰はそんなライをみて、思わず頬が緩んだ。最近悩みもあったが、こんな時間を過ごしているときはそんなことも忘れられた。
『水族館楽しかったね』
「そうだな」
お互いが生き物を見てる時よりお互いを見て、愛おしく思った時の方が満足してしまうなんて考えていることを二人が知る由もなかった。
一緒にご飯を食べて、手をつないで帰る。
『もうちょっとだね。予選まで』
「ああ。でもあくまで予選だろ?」
『そうだけどね。まぁ目の前の試合も大切でしょ?』
ライはそう言いながら、青峰のことを考える。きっと今の青峰に適う人間なんて予選ごときには出てこないのだろう。
『まぁ、物足りなかったら私がいつだって相手してあげるって』
最近は負ける回数が多くはなっていたが、負け続きというわけではない。青峰に勝つことだってちゃんとできていた。
「ンなこと言ったら大会の後は毎日になっちまうからやめとけ」
『…本当にバスケバカだね』
最近はあんな笑顔もなかなか見なくなっていた。でも自分とやってるときはたまにそんな笑顔を見せてくれる。その時、とても安心する。
青峰には、バスケを嫌いになってほしくないから。私は一度バスケが嫌いになってしまったから、その辛さがわかる。楽しくて大好きで仕方ないものが嫌いになってしまうこと。それは想像を超える辛いものがある。青峰にはそんな思いしてほしくない。いつまでも笑ってバスケしていてほしい。いつまでも楽しくて面白いものだと知ってしまったバスケを好きでいてほしい。