シリウスに手を伸ばして
□予選前合宿
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最初は征十郎のチームが勝ち、またメンバーを変える。
そうやって6ピリ分やって1日目は終わった。あとは各自自主練である。疲れた人たちはすぐに自分の部屋に行き、やりたい人は残る。私はもちろん後者を選ぶ。ゲーム中止められたシュートの改善点を考えなければ。皆のレベルが上がったことで、割と止められることが最近増えた。やられっぱなしでいられるのは耐えられない。明日には今日の分も取り返してやろうと少し休んですぐに立ち上がり、シュートをうった。
「…やってくのか?」
青峰に後ろから声をかけられた。
『うん』
ネットをくぐる音が二人の会話を繋ぐ。
「悪ぃ、俺あがるわ」
青峰はそう言って、通りすぎた。
え、具合悪いの?そう聞こうとした言葉が飲み込まれる。何だか聞いてはいけないような気がした。何度も見てきた練習後の青峰の後ろ姿が何か違うようなそんな気がしたのだ。
次の日もその次の日も青峰は自主練をしなかった。
『テツ何か青峰から聞いてない?』
「聞いてないです。でもいつもの青峰君だったらあり得ないですよね」
テツの言葉に小さく頷く。
バスケが好きな青峰がこんなに自主練しないなんてありえない。
『青峰1on1やろう?』
「ああ。それやったら帰るわ」
やっぱりおかしい。
『それなら私もそうするよ』
「別に付き合わなくていい」
『そんなつもりはないさ。ただ、青峰と話がしたいだけだよ』
1on1を少ししてから二人でバッシュを脱ぎ、あがる。体育館を出る前にテツに口パクでお願いしますねと言われた。私はそれに頷く。
合宿所までの道のりを二人ならんで歩く。
『最近自主練しないね』
「ああ」
『どこか悪いのかい?』
「いやそういうわけじゃねぇけど」
青峰は私と目を合わせてくれない。何か後ろめたいことでもあるのだろうか。
『みんな心配してるよ。らしくないし。一体どうしたの?』
「…」
青峰は答えない。
『そんなに言いにくいこと?私にまで言えないの?』
青峰は言うか迷っているようだった。
「お前にしか言えそうにねぇことだよ」
『何したの?』
「まぁ昔のお前みたいな感じだよ。何かつまんねぇんだ。バスケしてても。最近簡単に抜けるし簡単に点が入る」
ライは目を開けて驚く。
「そりゃあお前とやったりしてるときは楽しいけどよ。練習はつまんねぇ。うまくなったって言われるのは嫌じゃねぇけどライバルがいねぇのはつまんねぇ」
ライにはよくわかることだった。だって自分も経験してきたことだから。
『…やりあう相手がいないのって辛いよね』
青峰の手をとった。
『青峰の気持ちはすごくわかるよ。でも私は青峰を一人になんてさせない。青峰が高みに行くなら私だってそこまで行くよ』
ライのぶれない真っ直ぐな瞳に青峰の顔が映る。何て情けない顔してんだ、と青峰自身思った。
『だから、本当に一人だなんて思わないで。もし先にたどり着いても私は必ずそこまで追いつくから』
ね?そういうライに迷いはなかった。
本当にコイツ自分が女ってことわかってんのかって思わず笑いそうになる。
でもその言葉は青峰の心を動かすには十分だった。
『青峰には成長を止めてほしくないの。ずっとずっと高いとこを目指してほしいんだ』
そして私はそれについていくよ。
勇気をもらえた。
青峰はふっと笑う。
「お前には敵わねぇ」
そういって握っていた手を引く。青峰にすっぽり抱き締められる。
『は!?え、青峰!ここ!外!』
こんな誰がいつ通ってもおかしくないところでこんなことを!?
ライは頭がいっぱいになる。
「知ってるっつの。充電だ」
ちょっとしたら離してくれて。そっと顔を見上げれば互いの顔は真っ赤で。
「帰るか」
『今日はそうだね』
二人で仲良く合宿所へ向かった。