シリウスに手を伸ばして
□バレンタインデー
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私は思わず駆け出した。自分が告白しているわけでもされているわけでもないのに、おさまらない動悸。バッシュを扉にぶつけてしまい、中から2人の驚いた声が聞こえた。まずい。
私は練習中のような足の速さでそこを後にした。…私は、盗み見の罪悪感から逃げ出したんじゃない。ただ、青峰の返事を聞くのが怖かったんだ。もしあの子と付き合っちゃったら。そう考えたらいても立ってもいられなくて。今まで青峰と過ごした時間が全てあの子に注ぎ込まれてしまったら、もう今までのことはなかったことになるのかな。そんな風に考えたら悲しくて悲しくて涙が出そうだった。
視界がぼやける中、下を向いて走っていたら誰かとぶつかった。
「いってーな…ってライちん?」
敦だった。
『敦…』
「…何で泣いてんの?峰ちん?」
ストレート過ぎだよバカ。そんなことを思ったが、涙は止まってくれなくて。敦の大きな手が私の頭を撫でた。
「よしよし」
よくわからないようだが、慰めてくれる敦に甘えてしまった。
知らないわけじゃなかった。青峰がモテること。まぁたくさんいる女子の中で、私はさつきの次くらいには一緒にいる自信があるし、女バスの一人が青峰がかっこいいと言おうと私の方がチャンスはあるなんて思って目を逸らしてきた。でもやっぱり。青峰が誰かのになるなんて考えたくもない。
誰かを私と同じように撫でて、笑いかけて、一緒に笑って、辛いときは抱き締めて側にいる。そんな風になるのだろうか。イヤだなんて思った。子供じみてることはわかってる。でもそれでも今まで通りでいたいんだ。
「落ち着いたー?」
『うん』
二人のそんな会話のBGMにチャイムが鳴る。
「あらら?昼休み終わっちゃったね」
敦が言った。そんなに泣いてたのかと思うと恥ずかしくなる。
「もうこの時間はさぼっちゃおーか」
敦が笑った。教室に戻って泣いて赤い目をクラスメートに晒すくらいならサボった方がましだ。私は敦の言葉に頷いた。そして2人で校舎からは見えない死角に腰掛けて話した。