シリウスに手を伸ばして
□バレンタインデー
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その日は何だか皆浮き足立っているような気がした。女子も男子もそわそわ。
「ライさん、チョコまだですか?」
『帰りに皆と一緒に渡そうかなって思ってたけど』
「食べたいです」
テツがそう言ったので、私はテツにチョコを渡した。きっと今頃他の男バスはたくさんの女子に呼び出されて忙しいんだろうなぁ、なんて思った。テツも優しいし外見も悪くはないからきっとモテるのだろうが、いかんせん存在感がない。他の5人とテツの違いはそこで、それがまたテツのプレースタイルを生み出したのだけど。
「ん、美味しいです。料理上手なんですね」
『嫌いじゃないからね』
テツは食べ終わりごちそうさまでした、と言った。私もうん、と返した。
昼休み。男バスの体育館に自主練に顔を出せば、まぁチョコの海って感じ。
「黄瀬くーん!!」
女子の黄色い声援に涼太が手を振れば、きゃぁぁぁ!!と悲鳴が上がる。なんとまあ騒がしい。女バスの体育館が今諸事情で使えないからこっち来たのにこっちはうるさくて仕方ない。
同じ事を思っているのか、ものすごい不機嫌な征十郎がいた。
『眉間の皺ヤバいよ』
「うるさい」
うっわ、超不機嫌。
『そんな顔してたらチョコもらえなくなるよ。赤司君怖い!って』
「俺はライからもらえれば十分だ」
『口説いてんの?』
「まさか。叶わないって知ってるのに?」
征十郎が不適に笑う。私は自分の体温が急上昇するのがわかった。
「多分青峰は第3体育館にいるよ」
『なら騒がしいし私もそっち行くよ。征十郎も行く?』
「いや、いいよ俺は。邪魔しちゃうだろう?」
クス、と笑うその顔にバッシュをぶつけたくなったが、もうチョコあげない、の一言だけ言って私はその体育館を後にした。
少し歩いて、第3体育館に着く。私は体育館の扉に手をかけ、開ける。すると。
「…ずっと好きでした」
思わず扉を開けていた手を離す。中が見える。告白現場はしっかり見えた。可愛らしい女の子が青峰にチョコを渡そうとしていた。
「青峰君しか見えないんです」