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□Cocoa Cookie は実はそんなに甘くない
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※ヤンデレン→→→←リン











「リン?」



聞き慣れたその声が、涼やかにあたしの名前を呼んだ途端、全身から冷たい汗が噴き出してくる。とっさに気がつかなかったフリをしようかとも思ったが、彼があたしの存在に既に気づいているのなら、そんなことをしたら、後でどんな目に遭わされるか……考えただけでも恐ろしい。そうなれば、明らかにそれは得策ではなく……仕方なく観念して、そーっと、できるだけ自然な感じを心がけて振り向くと……廊下側の開いた窓枠に両肘をつき、ウチの教室をのぞき込む…あたしの弟がいた。…が、彼の方はまだあたしに気づいていないようで………とっさにあたしは視線をそらして、まだ気づいていないフリをしてしまった。


…あたしの弟の[ レン ]は…身内贔屓を差し引いたとしても、正直格好良いと思う。整った顔立ちに、落ち着いた雰囲気…涼やかな声…いつも沈着冷静で…礼儀正しく、愛想も良い。ぱっと見は、かなり好青年だ。だから、周りの評判もかなり良い。近所のおばさんたちの間では「鏡音さんとこのおぼっちゃん、ますます格好良くなったわねー」なんて言われ、[ マダムキラー ]で通っている。しかも、これが見た目だけではなく、勉強もスポーツもできるときたもんだ。…学校ではもちろん女子生徒の憧れの的。「リンはいいわねー」とか「アタシもあんな弟が欲しかったわ」なんてセリフは、もう百万回くらい聞いた気がするし…かといって、男友達も少なくない。どこにいっても人の輪の中心にいて…誰にでも高評価を受ける弟は、いっそ清清しいくらい完璧超人だった。


そう、レンは、血の繋がったあたしの家族で……自慢の双子の弟だ。そう思ってるのは嘘じゃない。それなのに…あたしは時々、レンが怖いと思ってしまうことがあった。


レンは…少し異常なくらい、あたしに執着することがある。時々ゾッとするくらい、冷たい目をすることだってある…。ただ…それに気づいているのはきっとその執着心を見せつけられているあたしくらいなのだろう。確かにおかしくなるのはあたしと二人っきりの時ばかり。相変わらず、外では完璧で理想の王子様で……きっとあたしが感じている違和感なんて、誰かに言ったところで、きっとみんなに笑い飛ばされて終わるだろう。だから、あたしは誰にも言えない代わりに、さりげなく、レンと二人だけにならないよう心がけていたつもりだったのだが……


レンはそんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、時々こうやって隣ののクラスまでやってきては、あたしを呼び出していた。









「リーン?あれ?いないのかな?」


少し困ったように笑って頭をかくレンに、ウチのクラスのお節介な女子たちが次々に近寄って、声をかける。


「あ、鏡音くんじゃなーい!」

「ウチのクラス、さっきの授業でクッキー焼いたのよ?鏡音くんももらってって?」

「クッキーか、イイなー。でも、ゴメン。気持ちはすっごく嬉しいんだけどさ。俺、ちょっと今、虫歯の治療中でさ?」





ほらね、断り方すらなんとなく角が立たない絶妙な言い方で…





「なにそれ、可愛いー」

「じゃ、治ったらまた作ってあげる」

「あはは、ありがと」





姉のあたしがドキッとするくらい、もちろん笑顔もさわやかで…





「てか、どうしたのー?わざわざウチのクラスまで来たりして」

「あ、もしかしてリンに用事??」

「そうそう、ちょっと母さんから伝言があってさ。リン、いる?」

「いるわよ?ちょっと待ってて。今呼んであげる」

「リーン?ちょっとー!あんたのイケメンの弟が呼んでるわよーww」





こうなってしまうともう逃げ場がない。あたしは曖昧に笑って、今気がついた体を装うくらいしかできない。





「あ、レ、レン?どうしたの?呼んでたの気づかなくて…」


レンにあたしの声が震えているのに気がつかれていないように、必死に祈る……が、残念ながら今の彼の表情からは、何も読み取ることができなかった。







「みんな、リン、呼んでくれてありがとね」


お礼もしっかり忘れずに言うと、レンはあたしににっこり笑いかけてこう言った。


「リン、ちょっといい?」


もちろん断れるハズもなく…あたしは小さく頷いた。





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