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□Cocoa Cookie は実はそんなに甘くない
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無言のまま、レンが向かった先は保健室。[ 本日、出張で開室しません ]という看板が出ているので、施錠されているハズなのだが……レンはポケットから1本の鍵を取り出すと、さっさと開錠してしまう。そして、レンが小さくあごでしゃくって促してくるままに、あたしはおずおずと入室した。


後ろでカチッと音がして、レンが内側から鍵をかけたようだった。狭い空間にレンとあたしの二人だけ……そう思った途端、どんどん不安になってくる。


それに…本来であれば養護教諭しか持たないハズの保健室の鍵を、何故レンが持っているのかわからない。…そんなことを考えていたら、レンはそんなあたしの心を見透かしたように笑って言った。




「あぁ、コレ?ちょっとちょろまかして合い鍵作ったんだ?」





確かに…レン程の優等生で信用されている生徒なら、そのくらいは容易いことなのかも知れない。でも……例えそうであっても、それはやってはいけないことで…


「……それってバレたらマズイんじゃ…」


なんて、おそるおそる言ったあたしを、レンは馬鹿にしたように笑った。


「バレたらね?じゃあ、バレなきゃいいんだろ?俺がそんな凡ミスするハズないじゃん」


「………」





これが王子様の正体だ。優等生が聞いて呆れる。でも、こんなレンを知っているのはあたしだけ。こんなこと言ったところで、きっと誰も信じない。そう思って、下を向き、唇を噛んでいると……いきなり簡易型のパイプベッドに突き飛ばされ、あたしは盛大に倒れ込んだ。





「!!!?」



「てか、そんな雑談するために呼び出した訳じゃないんだよねー」







「ちょ、ちょっと、レン!突然、何するの!?」


慌てて体勢を起こそうとするが、一瞬にしてレンの左手で、あたしの両手は頭の上でがっちりと押さえつけられてしまって、身を捻ることもできない。鼻先すれすれまでレンの顔が近づいてきて、思わず顔を背けようとしたが、今度は空いている右手であごを掴まれてしまう。これでは顔をそむけるすらかなわないようだ。


レンの冷たいオーラに気づいてしまって、震えが止まらない。そんなあたしににっこり笑って、レンはこう言った。










「今日の調理実習…クッキー作ったんだって?」





「……うん?」






何の脈絡もなく、何故そんなことを言われたのかはわからないが、とりあえず素直に返事をする。









「しかも、リン?お前、作ったクッキー、ミクオの野郎にあげるんだってな?」


「………クオちゃん?」





そう言えばさっき偶然廊下で会って、「クッキーいいなー。僕にもリンの焼いたやつ、ちょーだい?」なんて言われて……断れなくて、放課後あげる約束をしてしまったような気がする……






「ミクオのヤツが嬉しそうに自慢してきてさ?」


「それは………」






口ごもるあたしに、レンは一層楽しげに笑ってこう言った。



「いいなー、ミクオばっかり。俺だってリンのクッキーが欲しいのにな?」


「…えっと……でも、レン、さっきウチのクラスで断ってたし……」


「リンは本当にバカだな。あんなの嘘に決まってるじゃん。俺が歯医者なんか通ってないこと、姉さんのリンが一番わかってるんじゃない?」


「…………あ…」


「ね?それにさ、ミクオなんかにはあげるのに、可愛い弟の俺にはくれないなんて、ちょっと冷たいんじゃない?」


「えっと……」







口ごもるあたしに少しずつレンの表情が険しくなる。口調もどんどん刺々しくなっていく。


「へー、リンはそうやってミクオなんかに媚び売るんだ?いつも、そうやって男を落とす訳?とんだ阿婆擦れだね、リンは」


「そんなつもりじゃ……」


「言い訳なんか聞きたくないな。どっちにしたって請われれば、何だってあげちゃうんだろ?どんな男にもついてく、ただの尻軽女じゃん」



そう言った途端、レンの手に力が入り、あたしの手首がぎしぎしと嫌な音をたてた。口角はまるで笑っているかのようにぎゅっと持ち上がっているクセに、目だけはちっとも笑っていない。



「やっ、レン、痛いよ?」


震える声で主張するが、それが聞き入れられる気配はない。さっきまでの優しい弟のレンなんて、もうどこにもいない。ただただ怖くて、涙が出そうになる。



加えて軋む手首が限界を主張していて…流石になんとかしてその手を離してもらおうと思ったら…









いきなり


「……俺が姉さんをしつけ直してあげるね?」








そう言って、レンに乱暴に口付けられた。



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