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□Chocolate Chips Cookie なんかきっと彼には似合わない
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※後輩レン×先輩リン(一応、高校生くらいの設定)










「リーンせんぱーいっ♪」



どこかで聞き覚えのあるような声で呼ばれ、思わず振り返ると、まるでしっぽを振る子犬のごとく手を振りながら、廊下の端から走ってくる男子生徒が見えた。


男子生徒の名前は…割と珍しい感じの名字であるにも関わらず、あたしと同じで…[ 鏡音レン ]という。


彼は、2年のあたしよりも学年が一つ下で1年生…いわゆる後輩、というやつだ。ちょっとしたことから知り合って、なんとなく懐かれてしまったのだが……一体今日はどうして、こんな他学年のフロアにまで、わざわざやってきているのだろう…?普段は下級生が上級生のフロアにやってくることなんて滅多にないことで……だからこそ、制服のネクタイの色が違う彼は、ちょっと……いやすごく目立っていた。




「……鏡音くん…?あなた、どうしてこんなところに?」

「やだなー、リン先輩。そんな他人行儀に呼ばないで下さいよー。俺のことはレンでイイって言ったじゃないですか」

「……じゃあ、レン…くん?」

「んー、まだ堅いですけど、今日はそれで我慢しときますね」




他学年の生徒ってだけでも十分に目立つのに…彼は加えてこの容貌だ。整った顔にさらさらの髪、澄んだ瞳、子犬みたいに人懐っこいこの印象……正直、周りの視線を集めないハズがない。女子はなんだかキラキラした恋する乙女みたいな目でこちらを見てくるか、羨望の眼差しで睨み付けてくるかの二択だし…こちらを見てくる男子は、なんとなくみんなそわそわしている感じがして……とにかく落ち着かない。

それなのに、この少年ときたら、周りの空気なんて全く関係ないって感じで、にこにこ笑いながら話し続けている。



「…レンくん?ちょっと…?」

なんて、あたしの困ったような呼びかけにも


「え?何ですか、リン先輩?」

そう言って小首をかしげて、無邪気に笑ったまま、大きめの瞳でこちらを見つめてくる少年。






違うの違うの、そんなキラキラした目でこっち見ないで〜!!


あ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙、周りの視線が痛いぃぃぃ!!






いい加減耐えきれなくなったあたしは、


「ちょ、ど、どうしたんすか?」


なんて言ってる彼の腕を掴んで、強引に人気の少ない階段の踊り場に引きずっていった。




気まずくて、早く人目のないところに行きたかっただけなのに、


目の前の少年が、少し頬を赤らめて

「えっと…リン先輩ってば、意外と強引なんですね。こんな人気のないとこに俺を連れ込んだりして…」

なんて、暢気にふざけたことを言うものだから、少しだけ殺意を覚えた。









「ち、違うわよ!!あんなとこで他学年の生徒と話してたら目立つでしょ!?」

「えー、そうですか?」

「そうですか?じゃなくて、そうなの!みんなが見てたのに気づかなかったの!?」

そう言って怒る私にも、目の前の少年はきょとんとした顔をするだけで…






もう、仕方ないのでため息一つついて諦めて、さっさと用件を聞くことにした。





「もういいわ。…で、どうしたの?わざわざ上級生のフロアまで来るくらいなんだから、結構大事な用件なんでしょ?」


そう、あたしが切り出した途端、目の前の少年の目が輝きを増したような気がした。…何故か…ぶんぶんちぎれそうなくらい振られたしっぽまでうっすら見える気すらしてくる。





そして、そんな子犬みたいな反応をする彼の口から飛び出したのは…

「そう!そうなんですよ!リン先輩、今日、調理実習でクッキー作ったでしょ?」

なんていう言葉で………






あまりに脈絡のない話に、あたしはただただ戸惑ってしまった。








「…え?…うん…作ったけど…?てかなんでレンくんがそんなこと知ってる訳?」

「俺、リン先輩のことなら何でも知ってるんですよ?」



なんてイタズラっぽく笑う彼に、少しだけ心拍数が上がって、顔が熱くなる。


あたしってば、なんでこんな年下の子にドキドキしてるのよ!?落ち着け、あたし。とりあえずいつものように冷静に…。普段と同じく、年上のお姉さんらしく冷静に…。


そう思って必死にポーカーフェイスを維持して、平然を装って

「そういう冗談はいいから」

なんてはね除けてみたら。




「ちぇっ、冗談じゃないのにな」

なんて、彼は叱られた子犬のような顔をしてしゅんとしてしまった。まさかの落ち込み顔に…あたしはちょっとだけ心が痛む。



……がそれも一瞬。


「んー、まぁ、ネタばらししちゃうと、リン先輩のクラスが使った後、今度は俺たちのクラスが家庭科で調理室使ったからなんですけどね。ちなみに俺たちが作ったのはカップケーキです」


なんて、少しでも心を痛めたことが馬鹿馬鹿しくなるくらい、彼はすぐにいつもと変わらない無邪気な笑顔に戻ってしまった。



本当に掴み所がない…というかよくわからない少年だ。






「…で、それがどうかしたの?」

そう、訝しげに尋ねたあたしに、彼は最高にキラキラした笑顔でこう言った。




「ね、先輩?リン先輩の手作りクッキー、俺にくださいよ」



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