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□Mint Cookie の香りに惑わされて
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※キモレン×クーリン










「リーンたーん!」



聞き覚えのある声とそのふざけた呼び方が聞こえた途端、全身に沸き立つように鳥肌が立ち、嫌な汗がどっと噴き出してくる。とっさに他人のフリをしようかとも思ったが、そんなことをして、あのふざけた愛称「リンたん」を連呼されてはたまらない。後で恥をかくのは自分だということは火を見るよりも明らかで…

仕方なく観念して、首からギギギという不自然な音まで聞こえてきそうな程、ぎこちなく振り向くと、廊下側の窓からウチの教室に身を乗り出して、満面の笑みで手を振る男子生徒がいた。


男子生徒の名前は忌々しいことに、あたしと同じ名字で…[ 鏡音レン ]という。


彼は隣のクラスに来た季節外れの転入生だったのだが、先生に頼まれて、生徒会の役員として校舎を案内した日から、懐かれてしまい……というか目をつけられてしまい……以来こうやって付きまとわれている。


転入時の学科試験も歴代TOPの出来だと聞いたし、スポーツだって特待生になれる程、秀でている。さらさらの髪、透き通る瞳…見目麗しく、黙っていれば、本性を知らない他の女子生徒がため息をつくくらい格好良い。普段は全くもって普通だと、隣のクラスの友達に聞いていたのだが………あたしとしゃべる時だけ豹変し、一気に台無しな感じになるこの少年が、あたしは正直言って、心から苦手だった。



もちろん、今日も……わざわざ、あたしを訪ねて、隣のクラスからやってきた変態に、あたしは大きくため息をつく。



「ねー、リンたんってばー」

「うっさいわね!聞こえてるから、大声で何度も何度もふざけた愛称で呼ばないでくれる?恥ずかしいんだけど?」

「えー、テレてるリンたんもテラカワユス!!もうっ!俺を萌殺す気ですかぁ?ついでに今日のリンたんのパンツは何色ですかぁ?」

「うん、死ね?今すぐ死ね?」




嗚呼…こんなやりとりにも少しずつ慣れてきてしまった自分が悲しい…。


そんな落ち込むあたしの姿を気にすることもなく、唐突に目の前の男は両手を差し出してきた。


もちろん、全く意味がわからなくて、あたしはその手を睨み付ける。




「は?何なのよ?その手は?」

「んー、リンたんってば焦らし上手なんだから!」


少し頬を赤らめて、もじもじするその男を見て、ぞわぞわと更に鳥肌がひどくなった。気持ち悪い。本当に気持ち悪いです。鳥肌どころか蕁麻疹が出そうです。




「だ、だから一体何なのよ?」

「え?リンたんのクラス、今日、調理実習でクッキー作ったんでしょ?」

「…まぁ…作ったけど?」

「で、いつまでたっても愛しのリンたんが、俺に手作りクッキーを届けに来てくれないので、自分から取りに来てみました★」












「………は?」




「さっ、早くくれないとぎゅって★するゾ。てか、くれても嬉しくてぎゅって★するけど」





一体、何を言っているんだ、この男は……??わざわざ?あたしのクラスまで?あたしの作ったクッキーをもらいに来たっていうの??


一瞬クラクラしてしまって、言葉を失いかけたが…なんとか自分を落ちつかせ…






一応きちんと断っておく。


「だ、だが、断る!」


だが、そんな言葉で諦めるようなヤツじゃないことも、本当はあたしが一番よくわかっていて…案の定、速攻で


「え、なんで?」


と不思議そうな顔で返されてしまった。




「な、なんでじゃなくて!てかあたしがアンタなんかにあげる訳ないでしょ?」


「嗚呼…クールなリンたんも素敵だね。もう結婚しよう!今すぐ結婚しよう?」


「じゃなくてー!!てか、そんなにクッキーが食べたいなら、アンタ、他の子にもらえばいいじゃない!?……ウ、ウチのクラスの女子たちがアンタに渡しに行くって言ってたし……」



そう言って、なんとかヤツの要求をつっぱねようと、ごにょごにょと言い訳するあたしに、ますます不思議そうな顔をして、さも当然って口調でアイツが言った。





「んー、でも俺、甘いものって基本的に苦手だからな。だから他の人のやつは全部断るよ?」











「………は?…甘いものが苦手って……意味わかんない!!なんで!?じゃあ、なんであたしのクッキーなんて欲しがるのよ!?」


「んー、なんで?って言われてもな…、俺はそれがリンたんが作ってくれたものだから欲しいだけだしな」


「だから、それが意味わかん…!」




その瞬間、突然腕を掴んで窓枠の方へ引き寄せられる。そして鼻と鼻がくっつきそうなくらい至近距離で微笑まれた。








「ホントは意味…わかってるクセに…。俺はリンたんが好きなの。だからリンたんが作ったものなら何でも欲しい。例え、それが失敗して焦げて消し炭みたいになったクッキーだとしても、俺は全部食べてみせる。そのくらいリンたんを愛してるんだよ?他の人なんて興味ないし。てか俺、元々、リンたんだけしか興味ないけどね」











完全にふいうちだった。認めたくはない。認めたくはないけれど…不覚にもこんな変態に、あたしはドキドキしてしまっていた。一瞬にして、体中の血液が沸騰したかと思うくらい、顔が熱くなっていて……鏡を見るまでもなく、きっとあたしは真っ赤なんだろう。



そんなあたしにアイツは


「だから、リンたんのクッキー、俺にちょーだい?」


そう言って満面の笑みで手を出してきて…










そんなアイツにとうとう根負けして、今回だけはあげることにした。







……あそこまで言われて……ちょっとだけ…ほんの少しだけ嬉しかったし…。







「…調理実習で作りすぎて余った分だからね」


「ホント!?くれるの!?リンたんマジ天使!!」


「大袈裟ねー。でも、ま、今回はアンタの熱意に負けたってことで、あげるわよ」


「うわー!リンたんのクッキー!リンたんの可愛いおててがこねくり回して作った生地で焼いたクッキーですね!!もう一生食べないで保存しとくし!!」





………うん、やっぱり前言撤回





「やっぱ、それ返しなさい」


「えー、無理無理。マジ無理。だって家宝だもん!てかなんでいきなり返してなんて言うのさ?」


「…だって、アンタ絶対変なことに使いそうだし」


「やだなぁ、リンたんってば★変なことなんてしないってば。ただ毎晩においだけ嗅ぐだけだし♪ハァハァッ」


「やっぱ変なことするんじゃない!!さっきからずっと息荒くてキモイのよ、この変態!!てか、いいから返しなさいよー!!」








うん、やっぱこんなヤツ、好きじゃない







絶対に好きじゃない







きっとこんなの[ 恋 ]じゃない









― Mint Cookie の香りに惑わされて ―












クッキーシリーズ第二弾はキモレン×クーリンで。キモレンの動かし方としゃべり方が難しい…orz




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