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□Milk Cookie から始まる恋
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※イケレン(マセレン?)×おどリン











「リーン?」



聞き覚えのあるその声が聞こえた途端、全身から変な汗が噴き出してくる。とっさに気がつかなかったフリをしようかとも思ったが、そんなことをして後で後悔するのは自分だということもわかっている。…仕方なく観念して、首からギギギという不自然な音まで聞こえてきそうな感じで、ぎこちなく振り向くと、廊下側の窓からウチの教室に身を乗り出して、にっこりと笑って手を振る男子生徒がいた。


男子生徒の名前は偶然にもあたしと同じ名字で…[ 鏡音レン ]という。


最近、委員会が同じになったことがきっかけで、よく絡んでくるようになった隣のクラスのこの少年が、あたしは正直苦手だった。割と地味なあたしにとって、今まで友達になったことのないタイプだし……なんていうか、すごく強引だし……スポーツ万能で明るくて、かなり女子にもモテる彼が、何故あたしに絡んでくるのかなんて、いくら考えてもわからなかったから。


それなのに…鏡音くんはあたしの戸惑いなんて、全く気にしていない様子で、気軽に話しかけてくるので、その度にあたしは心臓が止まるくらいドキドキして、緊張していたのだった。




もちろん、今日も…あたしの動揺も戸惑いもALL無視らしい。

「ねー、リンってばー、無視しないでよー?俺、傷ついちゃうよ?」

なんて、嘘泣き付きで、言われてしまって、いつも以上にどうしていいかわからなくなる。









「……えっと…」


「てか、えっとじゃないよね?はい、早く出して?」


「…出してって……えっと…えっと………何を?」


「やだなー、すっとぼけちゃってぇ。クッキーに決まってるじゃん?今日、リンのクラスが調理実習だったのはリサーチ済みだし」





そう言って満面の笑みでちょーだいと手を出してくる鏡音くんに、あたしが



「ク、クッキーなら、鏡音くん、もう既にもらってるんじゃ…?…ウチのクラスの女子たちが渡しに行ってたハズだし…」


なんてごにょごにょ言って抵抗したら、






「ん?あぁ、あれ?断ったよ?」


なんて、あっさり笑顔で言われてしまった。











…断った?



言われた意味がわからなくて、おそるおそる


「なんで…?どうして断ったの…?……だって、クッキー食べたいんだよね?」


なんて訊いたあたしに


「んー、クッキーが食べたいっていうか、……」


「??」



「俺、リンの作ったクッキーが食べたいんだよね」


そんな恥ずかしいことをさらっと言って笑う鏡音くん。







「だから、リンのちょーだい?」


そんな風に言って、無邪気に笑って手を出す鏡音くんに不覚にもドキドキしてしまう。









何、ドキドキしてるんだろ、あたし…?



きっと、からかわれてるだけなのに…



鏡音くんだってあたしみたいな地味な女の子と話したことがなかったから、



だから、気まぐれでかまってみてるだけ…



うん、きっとそれだけ



それだけだもん





そう思って、分不相応な変な期待をしないように、頭を振って必死に雑念を追い払う。


だって、本当はあたしなんかが鏡音くんにドキドキすることすら申し訳ないくらいだし…。地味な人間は地味らしく、夢なんか見たりしないもん。だって鏡音くんは…あたしなんかと生きてる世界が違うくらい格好良い人だし。相手にされないことがわかってるのに、好きになって傷つきたくないし…。






臆病なあたしはそうやって、いつもの通り距離をとろうとしたのに……


「ん?どうしたの、リン?顔赤いけど?」


なんて笑って、鏡音くんはあっさり距離を縮めてきて……


尚且つ、熱はないみたいだけどなーなんて言って、それはそれは自然にあたしのおでこを触ったりしてくるものだから、あたしの心臓はもう爆発寸前だ。






なんとか必死にもう一度、心を落ち着けて

「ちょっと焦げちゃったから…」

なんて、やんわりと断ってみたのだが



「ん?別にいいよ」

なんてあっさり返されてしまって…




その後も必死に押し問答を続けてみたのだが…




「で、で、でも、味見してないよ?」

「リンが作ったヤツなら大丈夫!」

「か、形も変だし…!」

「だから、リンが作ったヤツなら何でもイイんだって」

「でも……」

「ほら早く?もうチャイムなっちゃうし。リンは俺に授業サボって欲しい訳?それとも一緒にサボって屋上でデートする?」

「え、えんりょします!!」

「んじゃ、早くちょーだい」




と結局押し切られてしまった。





そして、手を差し出す鏡音くんの満面の笑みについに負けて


覚悟を決めて、綺麗にラッピングしたクッキーを窓越しに差し出した、その瞬間





腕ごと彼に引き寄せられて……









「!!?」








「じゃ、クッキーとリン、ごちそうさま。でも次は口がイイなー、なんて?」



そう言って、クッキーを受け取った鏡音くんが、イラズラっぽく笑って風のように去ってしまった後に残ったのは…






…頬に残る柔らかな感触とぬくもりだけ…









「え?え?」





数秒後、何が起きたのかやっと理解したあたしは


ヤケドしそうな程に火照った頬を押さえて、その場にへたり込んでしまった。





「…あたし………」







教室の雑音をかき消してしまうくらい心臓の音がうるさくて



なんだか上手く息ができない。









彼が口付けた頬がこんなにも熱いのに、




往生際が悪いあたしはまだ




これは[ 恋 ]なんかじゃないと、




必死に思い込もうとしていた。








そう…きっとまだ[ 恋 ]じゃない






きっとまだ、ただの[ 憧れ ]






ねぇ、そうでしょう、恋の神様……?








胸の高鳴りはまだまだ収まりそうにない









― Milk Cookie から始まる恋 ―












[ いろんなレンリンを書こう ]と、そういうつもりで始めたこのクッキーシリーズ。第一弾は大好きなイケレン(マセレン?)×おどリンで。




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