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□なんちゃってヤンデレ彼氏
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※レンリン (なんちゃって病んでレン)
静かに眠るレンの頭を、リンは起こさないようそっと自分の膝から下ろした。そして細心の注意を払って立ち上がる。息を殺してそろそろと動いているつもりだが、どうしても衣擦れの音だけは防げない。布が擦れる微かな音がする度に、飛び上がるくらい驚いた。些細なことで跳ねる心臓を、リンは服をぎゅっと握って、抑えつける。
ここでレンを起こしてしまう訳にはいかない。絶対に気づかれてはいけないのだ。
そう思って…ドアノブに震える手をかけ、音を立てないようにそっと部屋の外に出ようと、一歩足を踏み出そうとした……その時、
後ろから、びっくりするくらい強い力で腕を掴まれた。
「リン?俺をおいて、どこに行くつもり?」
レンは、辛うじて口元に微笑みをたたえているものの、その目は決して笑っていない。
震えが止まらないリンの頬から首筋へ、冷たい汗が伝っていく。渇いた口では、上手く言葉が話せない。辛うじてリンの口から零れた言葉は、自分の片割れであり、半身である弟の名前だけ。
「レ、レン…」
「ねぇ、リン?答えてよ?俺に内緒でどこに行こうとしてるのさ?」
「どこって……」
「もしかしてあの男に会いに行くの?」
レンの口から、その言葉が出た途端、リンの肩が大きく跳ねた。
「俺、知ってるんだよ?リンが最近、あの男に夢中だってこと」
「そ、そんなこと……そんなことないよ?」
「ふーん…」
「そんなんじゃないから…だから手を放して?ね、痛いよ?」
「………この嘘つき女…」
「…え?………きゃっ!?」
その瞬間、リンは…レンに乱暴に、ベッドに向かって突き飛ばされた。そしてそのまま強引に四肢を押さえつけられ、ベッドに縫い止められてしまう。
細く華奢な、自分とよく似た小さな身体の少年の、どこにそんな力があったのかと思う程強く……白い肌に爪が食い込み、鬱血するくらいキツく掴まれて……リンは思わず苦痛に顔を歪めたが、レンはそんなこと気にもとめない様子だった。
吐息がかかる程、顔を近づけて、レンが顔を歪めてリンに言う。
「そんな嘘で俺を騙せると思ってる訳?」
「………!?」
「俺…リンのことなら何でもわかるよ?だってずっと…生まれた時から…俺はリンだけを見つめていたんだから…」
「…レン……」
レンは歪んだ笑みを浮かべながら…でも、どこまでも冷たい瞳でリンを見下ろし、饒舌に語り続ける。
「世界中で、リンを誰よりも愛してるのは俺だよ?リンしか要らない。リンだけを愛してる。俺だけがリンを幸せにできるんだ。…だから、行かせないよ…?あんな男のところ、行かせない」
「……ねぇ、レン?」
「リンだって、俺さえいれば、それで十分だろ?あんな男いなくたって……俺があの男の何倍もリンを笑顔にしてやる。……何十倍もリンのこと満たしてやるよ……だからさ?もうあんなヤツやめとけよ?アイツじゃリンのこと幸せにできないって…な?な?」
「…レン…お願いだから…お願いだから、あたしの話も聞いて?」
「五月蠅いっ!!この売女!!」
「……!!」
レンが呪詛に満ちた言葉を吐き捨てるように言い、怒りと悲しみの入り交じる形相で、腕を振り上げ…
リンは悲しげに、少し震えて………それでも、レンのどす黒い感情も、これから受けるであろう衝撃も、全て受け入れようと、そっと目を閉じた…その時
部屋のドアが勢いよく開いて
「ちょ、ちょっと待った、レン!!さっきから、なんかおかしいと思って聞き耳をたてていれば……一体リンに何してるのさ!?てか暴力反対!!」
とかなんとか言いながら、二人の間に、テンパりまくったカイトが飛び込んできた。
そんなカイトに、リンとレンは困ったように顔を見合わせて…
「何してるって言われても……なぁ、リン?」
「…うん?……ただの…あたしたちの間で今、流行の[ ヤンデレごっこ ]かな?…ね、レン?」
と…さも当然という雰囲気で答えた。
「…ヤ、ヤンデレごっこ…………???」
何を言われたのか?
これは一体どういうことなのか?
状況が全く理解できないカイトの頭上に大量のクエスチョンマークが踊っていると、ちょうど開いたままのドアの側をメイコが通りかかる。
救世主!!キター!!とばかりにカイトが
「め、めーちゃーん!」
と助けを求めると、
「リン!レン!アンタたち、またそんなことやってんの?[ ヤンデレごっこ ]とかいうふざけた遊びがマイブームだかなんだか知らないけど……いちいち本気にするカイトの、蚤の心臓がもたないから、いい加減紛らわしい遊びは止めなさい」
メイコは冷めた顔でこれだけ言って、すぐにその場を立ち去ってしまった。
「「はーい」」
その途端、黄色い双子も、少し残念そうにしつつも、メイコの言葉に素直に従い……
完全に置いてきぼりなのはカイトだけ。
「え?え?…遊び?」
「「うん」」
「あの男って…?」
「「…リンの最近のお気に入り、お笑い芸人の●●さん」」
「で、でも行かせないとか言ってなかったっけ??」
「「うん。だからテレビのあるリビングに」」
えーーーーー……!!!?
「リンが最近、その芸人にハマッててさー。テレビばっか観て、近頃は、俺のこと全然かまってくれないんだもん」
「えー、そんなことないよー?」
「じゃあ、なんでコソコソ観に行こうとしたのさ。俺の目なんて気にせず、堂々と観ればイイじゃん!」
「だって、リンがその人が出てる番組観て笑ってると、レンの機嫌が悪くなるんだもん」
「当たり前だろ!リンを笑顔にできるのは俺だけで、リンの笑顔は俺だけのものなの!!」
「レ、レン……!」
「…てか、リンの白い肌に、俺の爪の跡が残っちゃったな………ゴメン…」
「いいの。リンね?レンがつけてくれた跡なら、それがどんなのでも嬉しいよ?だって、それ見る度に…リンはレンのものって確認できるもん」
「リン………!!」
さいですか……
がしっと抱きしめ合う二人を見て、とてつもない虚無感に襲われて…
もう二度とこの二人の修羅場に踏み込むような、愚かな真似は止めようと、
カイトはそう決意し、一人、涙したのであった。
「あー、結局観たかった番組終わっちゃったしー!レンのバカバカー!」
「とか言って実は……ちゃんとリンのために録画してあったりして」
「ホント!?レン、優しー!出来る子ーー!!」
「へへっ、俺だってリンの悲しむ顔なんて見たくないしさ。…そ、その代わり、観終わったら………もっかい、膝枕してほしいなー…なんて?」
「するする!!いくらでもしてあげる♪レン、大好きー!!」
― なんちゃってヤンデレ彼氏 ―
リンとレンはこうやってナチュラルにいちゃこらすれ(ry
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