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「ア、アンタ…歪んでんじゃないの?」
やっと言い返したあたしに、レンは鼻で笑って言った。
「知ってる」
そして目の前の少年は笑顔のまま続ける。
「ほら、俺さ?国王になる前は王子だった訳じゃん?」
「……」
「お菓子でも、服でも、玩具でも、何でも与えられたし、何一つ、もので不自由したことなんてなかった。だから欲しいものなんてひとつもなかった。……いや、ひとつだけ手に入らなかったかな?…いわゆる純粋な[ 愛情 ]ってやつ?」
レンが一瞬だけ自嘲気味に笑ったような気がしたが…
すぐ元の飄々とした感じに戻ってしまった。
「母親はさっさと俺をおいて死んじゃっててさ。クソ親父は、物だけ与えて父親の体面を保つ以外は、権力だの金だの女だの、私利私欲ばっかでさ。普段は俺に興味すら持たなかった。周りの人間も俺が第一王位継承権を持つと知ると…こんなガキにさ、馬鹿みたいに媚び売って、愛想笑いしてさ。…そんなの吐き気がした」
いつの間にか、あたしも黙ってレンの話を聞いていた。
「親父が死んで、王位を継承するハメになって、ますますいろんな人間が近づいてきた。リンだってわかるだろ?みんな俺のもつ権力や地位、金にしか興味がない、浅ましい人間だよ。毎日毎日毎日毎日、おべっかに、妬みに…本当に吐きそうだった。こんなくだらない世界で生きなきゃいけないくらいなら、死んだ方がマシだと思ってた。正直、国なんてどうでも良かったし…実を言うと、こんな国、叔父さんにさっさと譲って早々にとんずらこいてやる!って、こっそり計画たててるとこだった」
「何言って…」
「でもさ、そんな時、アンタが王宮に来たんだ」
レンがあたしの輪郭を指でなぞる。
「アンタはさ…今まで俺の周りにいた誰とも違ってた。アンタは初めて俺に媚びも売らなかったし、愛想笑いもしなかった。無表情で、ただ黙々と俺の世話をして、淡々と侍女の仕事してた。何故だかわからないけど俺に似てるって思った。アンタも純粋な[ 愛情 ]をもらったことがない人間だって…直感で思った」
「…………」
「…アンタがさ、王宮の庭で小鳥にエサをやりながら笑ったのを、たまたま見てさ…その時、どうしてかわからないけど、もっとアンタが笑うところが見たいって思った」
レンがあたしの髪を手ですきながら
切ないというか、
愛しくて愛しくてたまらないというような笑みを浮かべる。
「女なんて、下品で媚態を垂れ流すだけの汚らわしい生き物だって思ってたのに…初めてリンが欲しいって思った。リンっていう女が欲しいと思った。リンの笑顔を俺だけのものにしたいと思った」
「…あたしを…?」
「なにも欲しいと思わなかった俺に、初めて欲しいと思うもんができた。だからさ」
レンの顔が近づいてくる。
「その女に……リンに俺の傍にいてもらうためなら、くだらない[ 王様 ]ってやつを、やっぱり、もうちょっとだけやってみてもイイかなって思ったんだよね」
そう言って、レンはあたしにキスをした。
「俺、結構、完璧な[ 王様 ]やれてただろ?」
そう言って笑うレンは、捕まえた蝶を自慢する子供のようだった。
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