long

□9
1ページ/1ページ




「我々の雇い主のあの方は、早急に成果を求めておられる」

「……わかってるわ」

「大金を払って、幼い王の遊び相手を派遣している訳ではないのだぞ?」

「………」




あたしは思わず下を向き、唇を強く噛む。

わかっている。







あたしだってプロのスパイだ。

依頼主の求める情報を手に入れてこそ、その価値がある。


それができていない今のあたしは、存在価値がないも同じだった。






「情報がないならそれでもいい。我々の雇い主が欲しいのは、黄色の国につけ込む材料だ」

突然、伝達役の男が含みのある笑い方をした。




「…何が言いたいの?」




「お前が王とのスキャンダルを起こしたっていいんだぞ?」

「!!?」


「黄色の国の新王は、随分お前にご執心らしいじゃないか?」

男は下種な笑いを浮かべる。

「……あれはただの君主と従者の関係よ。アンタが勘ぐるような、そういう類のものじゃないわ」

「どうだか」

「…しつこいわね」






いつもは流せるようなくだらない戯れ言も、なんだか今回はイライラした。


なぜかはわからないが、ふと自分が仕えている王の姿を思い出す。



普段は大人さえ震え上がるほどの威圧感を身に纏い

決して他の誰にも笑いかけたりしないくせに




あたしの入れたお茶を飲みながら

「リンが入れたお茶は上手いな」

そう言って、年相応に無邪気に笑う少年。





目の前の男の下卑た勘ぐりが、その笑顔を汚してしまう気がして嫌だった。





…汚す?




何が?


何を?





黄色の国の王への忠誠は偽りの忠誠だ。


私の仕事を進めるために必要だったから、

だから誓ったまでだ。





それなのに何故…?





自分でもどうしてそんなことを思うのかわからなくて、二重の意味でイライラする。




.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ