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□刹那的恋愛連鎖反応。
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町外れにある小さなバー。落ち着いた雰囲気を漂わせ、静かな店内のカウンター席の一番端。入り口からは死角となるその場所で、一人の少女が盛大に愚痴を零しながら酒を呷っていた。

「らからぁー、みぃは悪くなんかないんれるー。馬鹿なのはーどっかのだおーじですー。」

「…フラン、もう止めとけ。絶対お前酔ってるよな。コラ、酒飲むな!」

「まだ飲めるー。おかわり!」

真っ赤な顔をしながら元気良く店員にグラスを差し出す様子に、溜め息しか出ない。

―つい数時間前に電話で呼び出された。

何事かと慌てて駆けつければこの様だ。まだ酔いが回ってなかった頃にラジエルが聞いたところによると、どうやら恋人でありラジエルの双子の弟であるベルフェゴールと喧嘩して、同棲しているマンションを飛び出したらしい。

「ジールーさん」

酒のせいか潤んだ瞳とほんのり桜色に染まった白い肌、乱れた呼吸。

未だに絶賛フランに片思い中のラジエルにとって、この状況はかなりキツいものがあった。

心の底から愛しい人が助けを求めただけでも嬉しいのに、これほどまでに無防備でも良いのだろうか。

「…何だよ。」

ふふっと笑いながら目の前で薄いブラウス
のボタンを外し始めた。深い谷間が顔を覗かせた辺りでボタンを外す手を止め、ラジエルに思い切り抱きついた。

「フランっ!」

慌てて離そうとしてもいやいやと首を振るだけで腕の力は弱まらない。嬉しそうにラジエルの胸に顔を埋めたフランが、ポツリと声を漏らした。

「…ジルあったかい…ですー。心臓がどくどくいってる…」

(あー、何コレ。俺様幸せなんだけど…。)

「もう、ベルなんか知らない。きっとミーたちもう駄目なんですよ…ジルの方が優しいし、ミーのこと責めたりしないし…」

ふぅと息を吐いて、でしょ?と見つめてくるフランに、ラジエルの心臓がとくんと高鳴った。

フランは言った。
ラジエルの方が良くて、ベルフェゴールとの関係は終わりかもしれないと。

酒のせいでも良い。このまま既成事実を作ってしまえばこちらのものだと踏んだラジエルは、それとなくフランに声をかけた。

「ふーん。もうベルはイヤ?」

「ですー。」

「気の迷いかもしんねーよ」

「そんなことないです!」

「じゃあ…俺様が忘れさせてやろうか。クソ弟のこと、全部」

「全部?」

「そう、全部。」

一瞬フランの瞳が揺れたがラジエルは確信した。

―彼女は堕ちる。

「いい、ですよー」

心の中でガッツポーズを決め、フランの手を取り店を出ようと立ち上がった刹那、ラジエルの後頭部に鋭い痛みが走り、その場に崩れた。

「なぁーにやってんだよクソ兄貴。フランも!何て格好してるんだよ。ホイホイついて行こうとするし…」

グラス片手に仁王立ちするのは先程まで話
題の中心であったベルフェゴールだった。手にしたグラスにひびが入っていることから、それでラジエルを殴ったのだと安易に想像がつく。

「何てことするんですかー!最低。センパイなんでこんなとこいるんですか…とっととあの女のとこにでも帰れば良いんですよ。同棲してる部屋に女連れ込むなんて神経信じられませんー。もうミーはアンタの都合の良い女なんて辞めたんで…ジル、行きましょう。」

早口でまくし立て、数回聞いている方まで胸が痛くなるような暴言を吐くと、未だうずくまるラジエルを半ば引きずるようにして歩き出した。入り口に向かって一直線なフランを、ベルフェゴールが無理やり抱き寄せる。嫌だと叫び身を捩って抵抗するが、抱きしめる力は強まるばかりだ。

「勝手に勘違いして出て行くな!あいつ俺と付き合ってるって勘違いしてたんだよ。で、初めから付き合ってないって言ってやったら逆恨みしてフランに仕返しに来たんだよ…。すぐ追い出したし、何もねぇよ。本当にごめん。俺が愛してるのはフランだけだ。もういなくなるなよ…ジルのとこ行こうとするし、怖かった。」

「そんなの…そんなの!」

戸惑うフランの唇を塞ぎ、熱く口づけをを交わす。徐々にフランも受け入れ、宙をさ迷っていた手がベルフェゴールの背に回される。

―結局ただのバカップル。

痛む頭を押さえながら、見せつけるように抱き合い、キスをする二人にラジエルは呆れたように呟いた。

「お前ら…すんげー悪趣味。」




刹那的恋愛連鎖反応。
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