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□※シュガー・ベイビィ・ラブ
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別に、気持ちを疑っているだとか、浮気の気配があるだとかいう訳じゃない。
聞きたい事があれば、正面から尋ねるし、浮気なんてする位ならまずこちらを取り付くしまも無いほどばっさりと切り捨ててから堂々、動き出すだろう。
…それ以前に自分以外の誰かに気持ちが移っていくだなんて考えたくもないし、考えてもいない。

抱き寄せれば、建前なばかりの毒を吐いて胸に鼻先を擦り寄せるし、口づければ息を忘れてしまう位に懸命に応えてくれる。

ベッドの上では、自分にだけ見せてくれる愛らしさと艶の、息を飲むアンバランスに幾度となくこちらが持っていかれそうになるし、自分を受け止めながら、捨てきれない羞恥に肌を薄桃色に染めては独占欲に腰が疼く。
抗いきれない快楽に流されて妖しく腰を揺らす姿は何度眼にしても、その度に鮮やかに華開いては頭の芯を焼いていく。

すがるように、背中に腕を回してしがみつく姿なんか、それはもう可愛らしい。

だが、時には恋人から求められたいと思う事もある訳で。
おずおずと、受け入れられるのも好きだが、時には自ら腕を伸ばして欲しい。
その想いもまた、愛しい故なのだと。


「フラン、もう寝んぞ」
「はーい」

ベルフェゴールは情報端末の電源を落とすと、ベッドで腹這いになり読書に勤しむ恋人に声を投げた。
二人一緒に何かをするのは勿論楽しいし、幸せだ。
だけれど、最近、同じ空間にいてそれぞれの存在を感じながら互いに自分のしたい事をする時間を持つというのも、またゆったりとして悪くないと時折そういった過ごし方をしていた。
ベルフェゴールから借りた小説を読むフランの後ろを通りすがった際、物語の結末を言ってしまい、怒ったフランが幻術でレヴィ・ア・タンを大量生産したりといった事はあったが、ベルフェゴールが何気なく見ていたテレビでフランの好みそうなドルチェがあれば店に連れていってやる事もあったし、ベルフェゴールが雑誌を見ている隣でフランが洗濯物を畳んだり、キッチンに立って余程の甘党でなければ飲みきれないであろう、甘いココアの上に更に生クリィムをたっぷりと絞ってみたりと温かい時間を楽しんでいた。

「フラン…」
「ん、せん、ぱい…」

読んでいた本を書架棚に戻して、ベッドに潜り込むと先に横になっていたベルフェゴールがサイドの小さな灯りだけを残して照明を落とした。
するりと腕を伸ばしてフランを抱き込むと、ベルフェゴールは翠の髪を払い、額に唇
を当て、そこから鼻の付け根へ、目尻へと下ろしていって口端をぺろりと一舐めすると、感触を楽しむ様にフランの上唇をちゅ、と吸い上げた。
それに応えるように、フラン自身も、鼻先をすりすりとベルフェゴールにすりよせて、回した指先で耳朶を撫でたり華奢な足をそっとベルフェゴールの腿に絡ませたりと擽っていた。

「こーら、フラン擽ってぇだろ」
「せんぱい、襟足弱いですよねー」

くすくすと笑いながら悪戯を止めない恋人に『オシオキ』と称して、軽く体重をかけて退路を塞ぎきつく抱き締めると、ぎゅう、と抱き返しながら声が上がった。

「やぁ、せんぱい苦しいですー」
「じゃあ、参ったって言ったら止めてやるよ」
「言いませんー」
「なら、止めねぇ」
「ミーも止めませんー」

ベルフェゴールの腕にしがみつきながらフランは眼を細めた。

強く抱き締められると薄手のシャツ越しにベルフェゴールの体温としなやかな身体つきを感じる。
服を着ている時はほっそりとして見える身体だけれど、その戦闘スタイルから全身にバネがあって、抱き締められるとバランスよく筋肉がついているのがよく分かる。
情を交わした翌朝、陽射しを浴びて一糸纏わぬまま気だるげに立ち上がった姿は男の自分が見惚れてしまう位に艶がある。悔しいから言った事は無いけれど。
平均より少し高めの体温を、燃えるように直接肌に感じて溶けてしまうのも好きだけれど、シャツ越しにじんわりと感じるのも、深く息が出来る様な、そんな安心があって。
互いに言葉遊びを重ねながらじゃれ合う、眠る前のひと時が好き。

ベルフェゴールの唇が頬へ、首筋へと滑りおちて鎖骨の下に小さな所有の証を咲かせた。

「フラン…っ」
「せん、ぱい…ん…」

ベルフェゴールの声が艶を増し、その熱がフランへと伝わって身体の芯を熱くする。フランは襟足を擽っていた指先を後頭部に埋めて抱き寄せ、色づき始めた吐息を零した。

「ん…は、ぁ…っ」
「フ、ラン…フラン…っ」

少しずつ深くなる口づけと共に熱っぽく自分を呼ぶ声にフランの瞳も濡れたものに色合いを濃くして、腕を項に回しぴたりと身体を重ねた。
ぽってりと赤みを帯びたフランの唇をちゅ、と食みベルフェゴールは翠の髪をするりと撫でた。

「ん、じゃあお休み」
「…え、ぁ…」

身体を一旦離して、再びフランを腕に抱き直しベッドに横になったベルフェゴールに思わず上ずった声を返すと、きょとりと声が返る。

「何?」
「あ…いえ、何でもないですーお休みなさいー」

いつも通り、ベルフェゴールの腕の付け根あたりにまぁるい頭を預けて、フラン自身も眠る体勢をとり半端に灯された情炎の熱を感じながら瞳を閉じた。

雰囲気からして、てっきり情を交わすと思っていたのに。
珍しい事もあるものだ。

ふと視線を向けると、早々に眠気がやってきたらしいベルフェゴールがうとりうとりとしていて、既にこちらからの視線にも気付いていない事を確認し、まぁそんな日もあるかと再び瞳を瞑る。

大体、ちょっと…その、回数も多い気がする。
翌日に任務が控えていても、こちらの体力を把握しているらしく、支障の出ないぎりぎりまでを求められるし、任務の無い前夜ともなれば、空が白み始める頃まで求められる事もある。
…そうなれば、大体その日の予定は決まったも同然で、ベッドが一番の親友となりそこで一日を過ごす事になる。

それに、単純にベルフェゴールと抱きあいながら只、眠るのもそれはそれで心地がいい。
フランはそっとベルフェゴールの胸元に耳を当て、規則正しく刻まれる心音を子守唄に眠りについた。

「…はよ、フラン…」
「ん…おはよーございます…」

翌朝、肌に温もりを感じて目を覚ましたフランは自分より先にベルフェゴールが起きているという珍しい自体に、寝起きのぼんやりとした思考ながらもしや今日は雨どころかナイフが降るのではないかと自分の頬を撫でる掌に目を細めながらカーテンで朝日を閉ざし、ベッドサイドの仄かな灯りにぼんやりと輝く金糸を眺めた。

ただ、普段以上にどこか思考の行動速度が鈍く、時計に眼をやってみれば予定起床時刻まであと二時間程あり、これはいよいよナイフどころか大量のミンクが降ってきてあちこちに大火災が起きやしないかとフランは口を開いた。

「せんぱい、どうしたんですかー?」
「ん?何が?」

頬を撫でていた指先が、顎へと滑らかに流れて親指の腹で下唇の感触を楽しんだ。

「何、ってこんな朝早くに起きるなんて珍しいじゃないですか」
「お前、失礼な奴だな」
「ミーは事実を言ってるだけですー」
「別に、さ…いいだろ偶には」

下唇を擽っていた指を忙しく、今度は腰まで下ろすと鳩尾辺りをくるりと撫でた。

「フラン…ほら、こっち来いって」
「ぁ…っ」

しゅ、とシーツの衣擦れ音を立ててベルフェゴールはフランを組み敷くと、腰を撫で擦るのとは対の手で耳裏に指を這わせなが
ら寝起き特有の掠れた声で囁いた。

「なぁ、ほら…早起きもさ、悪くねぇだろ?」
「み、ぃは…いつも早起きで…ん、ぁっ」

舌先を器用に耳殻に忍ばせてくちゅりと音を立てながら、シャツ越しにうっすらとした造りの腹部を撫で、鼠径部へと指を遊ばせる。
昨夜眠る前に身体に灯った残り火を引き出され、この後に訪れるであろう蜜時を想いフランは睫毛を震わせ膝を擦り合わせた。

「ぁ…せん、ぱい…っあっ…ふ、ぅ…」

服の裾から、手を割り込ませ、今度は直接肌に触れくるくると下腹部を撫でた。
同じ箇所ばかり、しかも下着に触れるかどうかの位置にベルフェゴールのしっとりとした体温が伝わり指先が移動する度、フランは息を詰め焦れったい快感に視線をさ迷わせた。

「せんぱ…も、ぅ…っ」
「よっしゃ、折角早起きしたんだから、朝飯食べに外出ようぜ」

さっと波が引くようにフランに触れていた指を離すと、目尻にちゅ、と触れるだけの口づけを送り、ベルフェゴールはベッドを下りるとさっさとクローゼットに向かい着替えを始めた。

突然、放り出されたような感覚を覚え、フランはベルフェゴールの言葉に反応すら出来ず回そうとして空を切った手を見詰め自分の置かれた現状の位置が瞬く間に変わってしまった事をようやく悟った。

わざと、なのか。
自分は朝っぱらからベルフェゴールにからかわれてしまったのか。

疑問を乗せた視線をそのまま金色の恋人へと向けると寝間着を脱ぎ捨ててインディゴのダメージデニムを足に通すベルフェゴールから逆に催促の声が飛んだ。

「フーラーンー何ぼうっとしてんだよ、行かねぇのかよ」
「え、あの…っ…あー…シャワー浴びてきます」

「早くしろよ」と言いながら着替えを続けるベルフェゴールの横を適当な服を掴んですり抜けるとバスルームに飛び込み冷水を頭から浴びた。

どうやら、常よりは濃密であるものの本当に只の朝の挨拶らしい。

それなのに、あられもない声を零しあまつさえ、身体は快感として反応を示してしまった。

火照った肌とそれ以上に熱く芯を持ってしまった自分が恥ずかしくて頭を振って欲を散らそうとフランは水の勢いを強くした。
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