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□放課後rhapsody
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始まりはもう覚えていない。
それぐらいもう長い間ずっと片思いをしているのだ。

記憶というのは曖昧なもので、始まりも、日々の思い出も、全て一緒くたになって、美化された気持ちしか残らない。だから本当に好きなのかって、聞かれたら返答に困るかもしれない。

それでも、綺麗なエメラルドグリーンの瞳に射抜かれて恋に落ちたこと。そしてあの時初めて知った感情だけは、決して忘れはしないだろう。



放課後rhapsody




衣替えも完全に終わり、いよいよ冷房も使用開始かと思われる今日この頃。気温はすでに摂氏30度近く、完全なる夏日である。暑いなと制服のシャツをのボタンを外していく。学校指定のダサいスクバを持ちながら、家の前で人を待つ。約束の時間は7時50分。目当ての人はいつも約束の3分前に来る。

「…来たな」

今日も変わらず47分のご到着だ。坂道から朝日を浴びて反射する綺麗なエメラルドグリーンの髪が見える。

「おはよ、フラン」

此方の声に気づいたのか顔をあげ、これまた何時ものように少し微笑みながら

「ジルセンパーイ。おはようございますー。」

と言って手を振ってきた。
どくんと胸を打つ鼓動。
衣替えによって無防備に晒された白い腕が、目に毒だ。

「うししっ。はよ。ベルならもうそろそろ降りてくると思うけど。」

「おはようございますー。今日もベルセンパイは寝坊ですか…今日は先に行きましょうよー。ミー毎日待ってやる気もないんでー。」

この小さな後輩と出会ったのは遥か昔。家が近いことから幼少期からの知り合い。要するに幼なじみというやつである。
一個下だから学年は違うし、中学は別であったが今年の春、フランはラジエルと同じ高校に入学した。それから毎日こうやって、フランとラジエルとラジエルの双子の弟であるベルフェゴールの三人で登下校しているのだ。

「ほらー行きますよー!」

ベルを置いていくことに決めたらしいフランは先に歩き出し、ジルに手招きをする。何時もベルフェゴールがフランを独占するのだ。偶には許されるだろうと、カバンを持ち直して駆け出した。

「全く、ベルセンパイもジルセンパイみたいにちゃんと起きれば良いのにー。」

ぷうっと頬を膨らませながら、文句を言う
フランは幼子のようで可愛らしい。ベルセンパイ…と何度も呟いている。もちろんその事にラジエルは不安を抱いていた。

小さい頃から好きな色も、好きな玩具も、得意な科目も100m走の記録まで同じだったベルフェゴールである。好きな人もきっと同じ。だから、ベルがフランを好いていることは知っていた。そして、フランがベルのことが好きなのも知っている。

自分に向けられるそれと同じか否、もしも違っていたとしたら

(今日は言えっかなー…)

もしも好きとフランに伝えたらフランは何と答えるだろうか。今の関係が崩れるのを恐れて、ラジエルは未だにフランに気持ちを伝えられずにいた。

「なぁ…フラン」

「はいー。」

何ですかと大きな翡翠をこちらに向けてくる。きょとんと小首を傾げた姿が可愛らしい。
“好き”の一言が伝えられないカバンを強く握り締めて、ラジエルが口を再度開けた時だった。

「お前ら俺置いてくとかマジありえねー。」

坂道を全速力で駆け上がってきたベルフェゴールであった。寝癖がついたままだから、相当急いできたのだろう。

「あー。ベルセンパイだー。」

とくすくす笑い出したフランにベルフェゴールは無言で近づき片手を振り上げた。

「どうせお前の差し金だろっ。」

「ゲロっ」

頭を突かれてフランが悲鳴を上げるが、その顔はどことなく楽しげで。完全に蚊帳の外であるラジエルははぁと溜め息をついてしまう。どこからどう見てもいちゃつくバカップル。

(コイツら…またかよ)

二人の会話を聞きながら付いて歩き、校門に着いた所で別れる。もう無理なのかなとか思っていれば、フランがラジエルのシャツを引っ張った。

「ジルセンパイ。帰り待ってますから、先帰らないで下さいねー。」

じゃあと言って立ち去ったフランの後ろ姿を見ながら、まだ勝機はあるなと確証もないのに思ってしまった。


あぁ神様どうか。
今日の放課後こそは
俺に少しばかりの勇気を…





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10000hitフリリク
桐原様から頂きました。

思い悩むジル様…それもまた素敵!
でも結局、告白出来ない侭ベルとフランが付き合っちゃうんだろうか…と思ったり…

なんか可哀s(殴
不憫な汁様大好きです(笑
素敵な作品を有り難うございました!




 

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