復活


□領域侵犯
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「余計なことしないで下さいー。ミーひとりで大丈夫ですー」

「あっそ。別にカエル助けた訳じゃねーし。おまえがちゃんと術張ってねーと他の奴らも動きづれーだろ」

「…そうですね」

最近ずっとこんな調子だ。元々実戦タイプではない自分は他の幹部達が動きやすい様にターゲットやその周辺に幻覚を張るという役割が出来つつある。だから広範囲に術を仕掛ける時や敵側にも術士がいる場合、かなりの集中力が必要になり注意はしているつもりでもふいに背後からの攻撃だったり遠距離からの狙撃の対象になったりする事が多く、そんな時は決まってベルフェゴールがフォローしてくれるのだ

前任の身代わりでしかないこの身を、冷淡でヴァリアー1殺しの天才である彼が案じてくれる訳がない。言われた通り『任務遂行の為のフォロー』でしかない

それなのに、そうされる度に締め付けられる様に胸が苦しくなるのはどうしてなのだろう。今はまた先陣を切って戦いの直中へと飛び込んでゆく後ろ姿に無事を祈ってしまう、この気持ちの正体は一体何なのだろう



今日はオフで朝から肌掛けをベランダに干し、シーツも掛け替えてランドリーに放り込んで部屋に戻り掃除機のスイッチを入れ
た。フランの部屋には生活に必要最低限のものしかなく、丸くて愛らしい動きをする自動掃除機も部屋の中をスイスイと楽しそうに行き来しているけれど、これがベルフェゴールの部屋だったらと思う。床には脱いだ服や靴、雑誌・ゲーム機にお菓子の袋が散乱していて自動掃除機も行き場が無くて右往左往する事だろう。その様子を思い浮かべて思わず綻んだ口元に慌てて手をやり、誰も見ていないというのにふるふると頭(かぶり)を振って「別にセンパイの事なんか……」と声に出している自分にはっとして俯いた

洗濯の終わったシーツを力任せにパンパンと叩いて干し、一段落ついたところでくぅとお腹が鳴る。そう言えば朝食がまだだった。おそらくサロンに行けばルッスーリアが常備してくれているマフィンやコルネット位はあるだろう

洗濯バスケットを抱えてよたよたとサロンに向かうと、そこにいた人物にどきんと心臓が跳ねる

「お、カエル。今からメシ?」

愛用のマグカップでミルクを飲んでいたベルフェゴールが立ち上がりバスケットを抱えたまま固まっているフランのおでこをピンッと指で弾く

「セ…センパイ、昨夜任務だったんじゃ…


「あぁ。王子天才だからさっさと済ませて泊まらずに帰ってきた。おまえ、ひとりだったんだろ」

そう言われてハッと気付く。ボスとスクアーロはボンゴレに呼ばれていて今朝早く出掛けて行った。ルッスーリアとレヴィはペアで任務に出ていて、昨夜単独任務だったベルも戻るのは午後だと思っていた

「あ、えっと…はいー」

どきどきと速まる鼓動

それ以上ミーに踏み込んでこないで。近づいてくるベルフェゴールの顔すらまともに見られずに俯いたままでいると抱えていたバスケットをひょいっと奪われ顔を覗き込まれる

「おまえ、さ」

いつになく低いテノールが身体中にびりびり響き渡る

恐る恐る顔を上げると口元をへの字に歪ませたベルフェゴールがそこにいた

「おまえ、オレが怖えーの?」

その口調は怒りを含んだものではなく、どこか寂しげにも聞こえた

「な、んで。そんな事聞くんですか」

取り上げられたバスケットのせいで行き場を失った両手の拳を握り、その時出来る限り精一杯の力を振り絞ってベルフェゴールを熟視する

「いや。オレ、嫌われてんのかなーって」

フランからの視線を真っ直ぐに受け止め、頭ひとつ小さいフランの顔をじっと見つめ
ている

「そんなの、嫌いに決まってるじゃないですかー。すぐにミーにつまんない用事押し付けるし、ミーのこと馬鹿にするし、ミーにだけナイフ刺してくるし、そんなのミーにばっかり……」

任務中のフォローも、オフでの行動も。ミーにだけ−−−

「うん。カエルにだけなんだけど、そーゆーの」

ポケットに突っ込まれていた手がそっと伸びてきてフランの頬を優しく撫でる

ミーの心にずかずかと遠慮もなしに入り込んでくるセンパイのことなんか、何とも思っていないはず

「そういうの、おまえだけ。なんだっつーの」

どきんどきん

あぁ、でもこの気持ちの正体がなんなのか、もしかしてセンパイなら答えを知っているのかもしれない
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