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□たとえばそんなしゅうえん
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「もう、帰れませぬなぁ……」
「あぁ、そうかもしれんな」

紅い火が迫る戦場の片隅に追いやられた二人の影、景色が燃え落ちて行く様を眺めながら、淡く笑みを浮かべて佇むのはマークX。
傍らにはアウトバックが、従者のように控えていた。
体に感じる熱、視界を支配する焼けつくような紅い光に感嘆の意を示すため息をつき、かすれた声で美しやと言葉を漏らす。
その身を焼き尽くされ、死ぬかもしれないと言う状況下に置かれながら、二人の顔に恐れは感じられない。
むしろどこか満たされたような、穏やかな光がカメラアイには籠っていた。

「生きて帰るには、この火を突っ切る必要があるが……出来るか?」
「まさか……貴方の肩を借りなければ立てない俺に、かようなことが出来るとでも?」

槍の柄で示された足に目をやれば、左足の膝から下が欠損していた。
戦いの最中で爆発にでも巻き込まれたのだろうか、力任せに引きちぎられたかのようなぐちゃぐちゃな切断面。
ひしゃげたパーツに回路、滴り落ちるオイルの生々しさ。
補佐なしでは立てない足で、火の中を突っ切ることは簡単なことではない。

「俺を置いていけば、貴殿は生きて帰れますが」
「某は、主を贄にしてまで生きたいとは思わぬよ……主がいない世に執着が湧くか疑問だ」

あぁ……ならば、決まりだ。

「まだ、貴殿とこの世を生きてみたかった」
「主と生きれたら、どれだけ幸いだったか」

幸せそう、あるいは悲しげともとれる曖昧な笑みを浮かべながらマークXは、自らの太刀を一本抜いた。
マークXの肩に手を置いていたアウトバックもまた、やや距離をとるように離れると、槍を握る手に力を込めて持ち上げた。
そして互いの刃を、互いの首筋にそっとあてがった。
首を斬られれば、即死せずともやがて死ぬ。
火攻めに合い、焼かれてゆく戦場のただ中ならば、いずれその火に食われていくだろう。
別にこんな終焉を望んでいた訳ではない、叶うならば共に生きてみたかった。
時の流れに身をおき、自然と命尽きるのを待ち、眠りたかった。

「さぁ、参りましょうかマークX殿」
「あぁ、アウトバック」

言葉はそこで途切れた。
金属のぶつかり合う音、水がこぼれ落ちるような音、地に伏す音は、風に巻き上げられた火に食い尽くされて誰の耳にも届かなかった。
ただ最後に、誰かが楽しげに、笑った声が聞こえた気がした。

それはある意味残酷で幸せな、とある二人の終焉。

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