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□あいしています
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「おや…」

城の近くの餅処に団子を買いに行った帰り、ツーリングワゴンが作業をしていたまま放置していた天守に戻るとそこには、出掛ける前には居なかった者の姿があった。
ツーリングワゴン愛用の座布団を枕に、ひだまりですやすやと眠っているのは弟のアウトバックだった。
それはツーリングワゴンが魅入ってしまうほど珍しいくらいに無防備な姿だった。
城でもどこか気を張っているアウトバックが、先ほどまで無人だったとはいえ天守で一人、顔を隠すマスクまで外して眠りこけているなんて滅多に無い。
兄であるツーリングワゴンも、アウトバックのこんな姿を見るのは幼少の頃以来かもしれない。
「昔はこんな風に天守でお昼寝していましたね、そういえば」
ぼんやりと思い出される過去の記憶、まだアウトバックが戦も槍の扱いも知らなかった頃の事だ。
あの頃は素直に皆の愛を受けて、普通に幼子としての幸せを享受して自由に生きていた。
あの頃はよく、城下町に出掛けて二人で一緒にお金を出してお菓子を買ったりしてたっけとツーリングワゴンは薄く笑った。
「気がついたら、お前はもう戦に出てたっけ。初陣、早かったよね。もうちょっと、子供のままで居てくれてよかったのに、お前は私が望むよりもちょっと早く大人になっちゃったね」
可愛い愛しい幼い、年の離れた弟。いつまで経ってもそうであってほしかったけれど、気がつけばアウトバックはもう、戦に染まっていた。
今まで自分の後ろを歩いていたのに、気がつけば真横に並び、はっと顔をあげたら追い越されて…今じゃ背中しか見えない。
自分よりも早く、命を燃やしている様に思えてならない。いつしか自分より先に逝ってしまうような気がして、ちょっと怖い。

「もっとゆっくり生きて良いよ、時には戦いから逃げたって良いよ」

逃げも怯えも全部許してあげるから

「私より先に、死なないでおくれ」




あいしています、だから、先逝きそうなあなたがこわい。

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