GZ

□すなおになる
1ページ/1ページ

その日は雨、空は陰り冷たい雨が降りしきる。
昼下がり、アウトバックがトヨタの地にあるマークXの離れを訪れた時から降っていた雨は、夜になっても止むことはなかった。
雨水が屋根を打つ柔らかな音に耳を傾けながら、マークXは畳の上にあぐらをかき、酒の入った瓶子を持ち上げ杯に注ぐ。
「折角来てくれたこの日に、雨とは不運だな」
「天候は思い通りにはなりませぬ故…しかしどうせなら晴れてほしかった所」
静かに言葉を返し、アウトバックは離れの外を無言で見つめた。
雲で月明かりが遮られた夜、街灯もないこの場所は深い闇に飲まれている。
室内もやや明るさに欠ける、手元の蝋燭と部屋の片隅に置かれた行灯以外の光源がないせいだ。
赤い灯が、アウトバックの赤い装甲に照ってきらめく様が美しいとマークXは感じる。
暗がりでこそ映える光の妙だ、これが明るい元ならばきっと褪せてしまうだろう。
日頃より妖艶にさえ見えるアウトバックの姿に満足げに杯を傾ける。
「そういえばアウトバック、今日はなぜここに参った?」
「ぇ?」
「手合わせが目当てなのかと思ったが、言い出さぬ所を見る限り違うようだな」
アウトバックが自らトヨタの地にくる理由と言えば、大体土産を届けるか手合わせを乞うて来るかの二択であるが今日はどちらでもなさそうだ。
珍しく槍を携えていない、従者の忍の気配も感じないあたり何をしにきたのか見当がつかない。
「……俺も、戦いばかりを求めているのでは無いのですよ。マークX殿」
「ほう」
「その、小難しい思考をとっぱらって考えてくだされ」
「もっと単純に考えろと? 純粋に会いたかっただけか?
アウトバックが体がわずかにだがぴくっと震える、赤いカメラアイのレンズの奥でセンサーを反らし、微かに俯く。
図星だったようだ。ガードが固い、奥手な彼が会いたいという理由だけでトヨタを訪れるのは珍しい…いや、初めてかもしれない。
「会いたい、という理由だけで来たのか」
「…はい。駄目でしたか」
「いや、嬉しいぞ」
「真に?」
「手合わせや土産、他の用件の影に隠れずその想いだけでトヨタの地を訪れてくれた…これは喜ばしいことぞ、アウトバック」
マークXが二人の間の間をつめる、酒で濡れた唇に指を添えて食む様に口吸ひをする。
薄いが、柔らかみのある唇の感触と熱を堪能するともの惜しげにそれを解放した。
その行為はちょっとした戯れだ、アウトバックの硬い表情を崩すにはちょうどいい。
唐突な行為に動揺したアウトバックの赤い目は鋭さを手放し、変わりに動揺に揺らぐ不安定な波を抱えている。
こういったことにはめっぽう弱いのだと知ったのは、唇を化重ねるほど深い間柄になってから。
毅然とした態度も凛とした目差しも、たった一回のふれあいで崩れてしまう。
「マークX殿…っ…」
「相変わらず良い反応を返す、可愛い奴よ」
「そんな言葉、俺には不釣り合いです」
「そうか? もう一度、試してみようか?」
そういってもう一度、マークXはアウトバックににじりよる。抵抗してくるのを押さえ込み、そのまま唇重ねた。
押し切ってしまえばこっちのもの、抵抗もあっけなく止んでしまった。弱い、本当に弱い。この初な様が嬉しくもあり、危うさも感じさせる。
「…っ、おやめください!」
「嫌か。随分素直に反応を示してくれて某は嬉しいのだが」
困った様に笑いながら、耳のような尖った時を甘噛みするとアウトバックの体が震える。
くぐもった声が聞こえるあたり、微弱ながらも快楽を得ているらしい。やめてくだされ、そう言いたげに無言で首を横に振るが、そんな様子もマークXからすれば可愛げのある反応、余計に見たくなる。
「だ、めですっ…」
「珍しく反応が素直なのでな、もっと見たくなったのだ」
「……」
動揺した様に目を見開くアウトバック、マークXを直視できない。
無言のままにアウトバックは顔を伏せた、早まるパルスが響いてくるのが嫌でも感じてしまう。
顔が熱い、柄じゃないとアウトバックは笑う。自分のペースや感情的な盾が、マークXの手にかかれば簡単に乱されて、崩される。
自分の領域に他者を招くこの慣れない感覚がむずがゆく、されど心地悪さは感じないのだ。
きっと、かの方だけだろう。
「面をあげてくれぬか? アウトバック」
優しく言われ顔をあげる、今自分はどんな表情をしているのだろうかとアウトバックは思った。
マークXがこちらをまっすぐに見ている、淡い紫のカメラアイが穏やかな光を抱いてアウトバックを見ている、吸い込まれそうだと思う。
「マークX殿…」
最後のガードが落ちた、そんな感じだ。マークXの胸に頭を寄せて、体を預けたアウトバック。善がる訳じゃない、ただ寄りかかっただけだ。
これが精一杯の甘え、といった所かなとマークXは満足げにくつくつと笑ってみせた。
いつの間にか、雨はやんでいたようで、相手の音がよく聞こえて心地よい夜になっていた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ